第1編 基礎原理 第1章 基本概念

KH0010H26-01K 刑罰論 B

刑罰論に関する次の1から5までの各記述のうち,正しいものはどれか。
1.応報刑論は,産業革命に伴う工業化・都市化によって累犯が増加したことを契機として,支持者が増えた。
2.応報刑論に対しては,重大な犯罪を犯した者であっても,再犯可能性がなければ刑罰を科すことができなくなるとの批判がある。
3.応報刑論に対しては,論者が前提としている人間の意思の自由が科学的に証明されていないとの批判がある。
4.応報刑論に対しては,犯罪を防止するために罪刑の均衡を失した重罰化を招くおそれがあるとの批判がある。
5.応報刑論に対しては,刑罰と保安処分の区別がなくなるとの批判がある。

解答 3

KH0020H30-01 刑罰論 A

刑罰論に関する次の各【見解】についての後記1から5までの各【記述】のうち,誤っているものを2個選びなさい。
【見 解】
A.刑罰の目的は,行為者が将来再び犯罪を行うのを予防することにある。
B.刑罰の目的は,刑罰による威嚇を通して一般人が犯罪を行うのを予防することにある。
C.刑罰は,犯罪を行った者が果たさなければならないしょく罪である。
D.刑罰の目的は,処罰により行為者の行為が犯罪であると公的に確認され,これを通して一般人が犯罪を行うのを予防することにある。
【記 述】
1.Aの見解に対しては,軽微な犯罪を行った者であっても,その更生に必要であれば,長期の拘禁刑を科すことが正当化されるおそれがあるとの批判が可能である。
2.Bの見解に対しては,刑罰は重ければ重いほどよいという考え方に陥るおそれがあるとの批判が可能である。
3.Cの見解は,軽微な犯罪を行った者であっても,一般予防の必要性が高いときはその刑を重くしなければならないとの考え方に親和的である。
4.Cの見解に対しては,犯罪を行った者に対し,その処罰を猶予する余地がなくなるとの批判が可能である。
5.Dの見解は,自由意思の存在を認めない決定論を前提として初めて成り立つものである。

解答 3,5

KH0021R02-07 刑罰論 B

学生A,B及びCは,後記【会話】のとおり議論している。【会話】中の①から⑤までの( )内から適切なものを選んだ場合,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。
【会 話】
学生A.人に意図的に害悪を加えることは,本来であれば許されないはずです。それにもかかわらず,刑罰という苦痛を人に与えることが正当化される実質的な根拠は何でしょうか。
学生B.私は,刑罰は犯罪に対する非難を含むもので,その意味で①(a.応報・b.社会統制の手段)としての性質を持ち,②(c.犯罪者の改善更生・d.正義の実現)という観点に照らして,犯罪に対する反作用であること自体に刑罰の正当化根拠を見いだすことができると考えます。もう少し詳しく言うと,自らの意思で犯罪行為を行うことを決意し実行した犯罪者に対して,その意思決定を回顧的に非難する点に刑罰の正当化根拠があるということです。
学生C.B君は,③(e.非決定論・f.決定論)の立場を前提にしているのですね。しかし,(①)としての刑罰自体に刑罰を正当化する根拠があるという説明では,刑罰を科すことそれ自体が目的ということになりませんか。刑罰は,国家の制度の一種なのだから,国民の現実的な利益を実現する手段として合目的性の観点から正当化されるべきではないでしょうか。私は,刑罰を科すことが許される根拠は,④(g.被害感情の緩和・h.犯罪の予防)にあると思います。犯罪によって得られる快楽を上回る苦痛を刑罰として予告すれば,一般人に対する威嚇的な効果があるからです。刑罰は(④)という公的利益の達成に資するために,人に科すことが正当化されるのだと思います。
学生A.私も,基本的にC君の考えに賛成ですが,(④)の観点を強調しすぎると,⑤(i.責任・j.被害感情)の程度を超える刑罰を科すことも肯定されかねず,刑法の基本原則に反する帰結をもたらすことになるのではないでしょうか。
1.①a ③f  2.①b ⑤j  3.②d ④h  4.②c ⑤i  5.③e ④g

解答 3 ①a ②d ③e ④h ⑤i

第1編 基礎原理 第2章 罪刑法定主義

KH0030H27-19 罪刑法定主義 A

罪刑法定主義に関する次のアからオまでの各記述のうち,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。
ア.犯罪と刑罰は,「法律」によって定められていなければならず,この「法律」には,法律の委任を受けた政令,条例及び慣習法が含まれる。
イ.行為の時に適法であった行為を,その後の法律によって遡って犯罪とすることは,許されない。
ウ.ある刑罰法規につき,条文の文言を,語義の可能な範囲内で通常の意味よりも広げて解釈することは,許されない。
エ.刑の長期と短期を定めて言い渡し,現実の執行期間をその範囲内において執行機関の裁量に委ねることは,許されない。
オ.ある刑罰法規が,犯罪に比べて著しく均衡を失する重い刑罰を規定している場合,当該刑罰法規は違憲である。
1.ア イ  2.ア ウ  3.イ オ  4.ウ エ  5.ウ オ

解答 3

第2編 犯罪 第1章 犯罪の概念

KH0075R02-05Y 結果的加重犯の共同正犯 A

結果的加重犯について,学生A及びBが次の【会話】のとおり議論している。【会話】中の①から⑧までの( )内に後記アからスまでの【語句群】の中から適切なものを選んだ場合,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。なお,①から⑧までの( )内にはそれぞれ異なる語句が入る。
【会 話】
学生A.結果的加重犯について,判例は,基本犯と加重結果との間に(①)があれば足りるとしていると解されていますね。
学生B.判例の立場は(②)の点から疑問があります。私は,加重結果の発生について行為者に(③)がなければ,結果的加重犯の成立を認めることは許されないと考えます。
学生A.確かに,判例が求めている(①)を単なる(④)と解するのであれば,(②)の点から問題だと思いますが,私は(①)の有無については(⑤)が認められるか否かを基準に考えますので,(②)の点も問題ないと考えます。ところで,あなたのように加重結果の発生について行為者に(③)を要求するのであれば,加重結果の(⑥)があることが必要となりますが,誰を基準にそれを考えるのですか。
学生B. (⑥)は(⑦)の前提要件であることから客観的に判断すべきであり,それゆえ,(⑧)を基準にすべきと考えます。
学生A.そうすると,私の見解でも,(⑤)の有無の判断の基礎となる事情の一つとして,行為の時点において(⑧)が認識可能であった事情を考慮するので,あなたの見解と変わりはないのではないですか。
【語句群】
ア.故意 イ.過失 ウ.注意義務 エ.期待可能性 オ.予見可能性 カ.一般人 キ.行為者 ク.因果関係 ケ.条件関係 コ.実行行為性 サ.相当因果関係 シ.責任主義 ス.法益保護主義
1.①ク ⑤コ  2.②ス ④ケ  3.②シ ⑦ア  4.③イ ⑧カ 5.⑤サ ⑥エ

解答 4 ①ク ②シ ③イ ④ケ ⑤サ ⑥オ ⑦ウ ⑧ カ

第2編 犯罪 第1章 犯罪の概念

KH0090H25-01K 法人 B

次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものはどれか。
1.法人事業主は,その従業者が法人の業務に関して行った犯罪行為について,両罰規定が定められている場合には,選任監督上の過失がなくても刑事責任を負う。
2.法人事業主を両罰規定により処罰するためには,現実に犯罪行為を行った従業者も処罰されなければならない。
3.法人事業主が処罰される場合には,その代表者も処罰される。
4.刑法各則に規定された行為の主体には,法人は含まれない。
5.刑法各則に規定された行為の客体には,法人は含まれない。

解答 4

KH0110H28-17 間接正犯の成否 A

次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討し,甲に( )内の罪名の間接正犯が成立しないものを2個選びなさい。
1.甲は,是非弁別能力を有する12歳の長男乙に対し,強盗の犯行方法を教示し,その際に使う凶器を提供して強盗を実行するよう指示したが,その指示は乙の意思を抑圧するものではなく,乙は,自らの意思により強盗の犯行を決意し,甲から提供された凶器を使って,状況によって臨機応変に対処して強盗を実行した。(強盗罪)
2.医師ではない甲は,妊婦乙からの依頼を受けて乙への堕胎手術を開始したが,その最中に乙の生命が危険な状態に陥ったため,医師丙に依頼し,胎児を乙の母体外に排出させた。(同意堕胎罪)
3.公務員ではない甲は,公証人乙に対して虚偽の申立てをし,事情を知らない乙をして,公文書である公正証書の原本に虚偽の記載をさせた。(虚偽公文書作成罪)
4.甲は,事情を知らない新聞社の従業員乙に依頼して,同社の新聞紙上に,丙に無断で丙名義の事実証明に関する広告文を掲載させた。(私文書偽造罪)
5.甲は,乙所有の建材を自己の所有物であると偽って,事情を知らない丙に売却し,丙をして,乙の建材置場から当該建材を搬出させた。(窃盗罪)

解答 1,3

KH0120H30-17K 間接正犯・共同正犯 A

次の【事例】における甲の罪責について,判例の立場に従って検討した場合,正しいものは,後記1から5までのうちどれか。
【事 例】
甲は,バーの経営者Aから現金を強取しようと考え,12歳の長男乙に,「Aのバーに行ってお金をとってきて。覆面を付けて,『金だ。』とか言ってモデルガンを見せなさい。」と言い聞かせた。乙は,当初警察に捕まることを恐れて嫌がっていたが,結局小遣い欲しさから承諾し,甲から覆面とモデルガンを受け取った。
乙は,Aのバーまで行き,甲から指示された方法に従って,覆面を付けモデルガンを拳銃のように見せ掛け,Aを脅迫してその反抗を抑圧した。さらに,乙は,自己の判断により,外から人が来ないようにするためバーの出入口ドアの鍵を掛け,Aを店内のトイレに閉じ込めた。その後,乙は,レジ内の現金を強取し,外に出ようとしたところ,トイレから脱出して乙に向かってきたAから腕をつかまれたため,これを激しく振り払った。その結果,Aは転倒して負傷した。
乙は,逃走して自宅に戻り,強取した現金を全て甲に渡した。甲はその現金の中から乙に小遣いを与え,その余を生活費等に費消した。 
1.強盗致傷罪の教唆犯が成立する。
2.強盗罪の間接正犯が成立する。
3.強盗致傷罪の間接正犯が成立する。
4.強盗罪の共同正犯が成立する。
5.強盗致傷罪の共同正犯が成立する。

解答 5

KH0130H29-01 間接正犯 A

次の【見解】に関する後記1から5までの各【記述】のうち,誤っているものはどれか。
【見 解】
間接正犯については,被利用者の行為時に実行の着手を認めるべきである。
【記 述】
1.【見解】は,実行行為時と実行の着手時期が一致することを要しないとする考え方と矛盾しない。
2.【見解】に対しては,利用者にとって偶然の事情で実行の着手時期を決することになり不合理であると批判できる。
3.【見解】は,離隔犯において到達時に実行の着手を認める考え方と矛盾しない。
4.【見解】に対しては,責任無能力者を利用する場合には,責任無能力者に規範意識の障害がないというだけで,直ちに結果発生の切迫した危険があるとはいえないと批判できる。
5.【見解】は,自然的に観察して結果発生に向けた直接の原因となる行為を重視する考え方と矛盾しない。

解答 4

KH0131R02-01K 間接正犯 A

次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものはどれか。
1.甲は,Xに対し,暴行や脅迫を用いて,自殺するように執拗に要求し,要求に応じて崖から海に飛び込んで自殺するしかないとの精神状態に陥らせた上で,Xを崖から海に飛び込ませて死亡させた。この場合,甲に,Xに対する殺人罪は成立しない。
2.甲は,追死する意思がないのにあるように装い,その旨誤信したXに心中を決意させた上で,毒物を渡し,それを飲み込ませて死亡させた。この場合,甲に,Xに対する殺人罪は成立しない。
3.甲は,財物を奪取するために,当該財物の占有者Xに対し,反抗を抑圧するに足りる程度の暴行や脅迫を用いて,当該財物を差し出すしかないとの精神状態に陥らせた上で,当該財物を差し出させた。この場合,甲に,Xに対する強盗罪は成立せず,窃盗罪の間接正犯が成立する。
4.甲は,日頃から暴行を加えて自己の意のままに従わせて万引きをさせていた満12歳の実子Xに対し,これまでと同様に万引きを命じて実行させた。この場合,Xが是非善悪の判断能力を有する者であれば,甲に,窃盗罪の間接正犯は成立せず,Xとの間で同罪の共同正犯が成立する。
5.甲は,Xが管理する工事現場に保管されている同人所有の機械を,同人に成り済まして,甲をXであると誤信した中古機械買取業者Yに売却し,同人に同機械を同所から搬出させた。この場合,甲に,Xに対する窃盗罪の間接正犯が成立する。

解答 5

KH0150H25-11K 不作為による殺人 A

次の【事例】及び【判旨】に関する後記1から5までの各【記述】のうち,正しいものはどれか。
【事 例】
甲は,手の平で患部をたたいてエネルギーを患者に通すことにより自己治癒力を高めるとの独自の治療を施す特別の能力を有すると称していたが,その能力を信奉していたAから,脳内出血を発症した親族Bの治療を頼まれ,意識障害があり継続的な点滴等の入院治療が必要な状態にあったBを入院中の病院から遠く離れた甲の寄宿先ホテルの部屋に連れてくるようAに指示した上,実際に連れてこられたBの様子を見て,そのままでは死亡する危険があることを認識しながら,上記独自の治療を施すにとどまり,点滴や痰の除去等Bの生命維持に必要な医療措置を受けさせないままBを約1日間放置した結果,Bを痰による気道閉塞に基づく窒息により死亡させた。
【判 旨】
甲は,自己の責めに帰すべき事由によりBの生命に具体的な危険を生じさせた上,Bが運び込まれたホテルにおいて,甲を信奉するAから,重篤な状態にあったBに対する手当てを全面的に委ねられた立場にあったものと認められる。その際,甲は,Bの重篤な状態を認識し,これを自らが救命できるとする根拠はなかったのであるから,直ちにBの生命を維持するために必要な医療措置を受けさせる義務を負っていたものというべきである。それにもかかわらず,未必的な殺意をもって,上記医療措置を受けさせないまま放置してBを死亡させた甲には,不作為による殺人罪が成立する。
【記 述】
1.Aが甲に対してその特別の能力に基づく治療を行うことを真摯に求めていたという事情があれば,甲にはその治療を行うことについてのみ作為義務が認められるから,この判旨の立場からも殺人罪の成立は否定される。
2.判旨の立場によれば,この事例で甲に患者に対する未必的な殺意が認められなければ,重過失致死罪が成立するにとどまる。
3.判旨は,不作為犯が成立するためには,作為義務違反に加え,既発の状態を積極的に利用する意図が必要であると考えている。
4.判旨は,Aが甲の指示を受けてBを病院から搬出した時点で,甲に殺人罪の実行の着手を認めたものと解される。
5.判旨は,先行行為についての甲の帰責性と甲による引受行為の存在を根拠に,甲のBに対する殺人罪の作為義務を認めたものと解される。

解答 5

KH0160H27-01 不真正不作為犯 A

次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。
ア.不真正不作為犯の作為義務は,法律上の規定に基づかなければならない。
イ.不真正不作為犯が成立するために,作為可能性を必要としない場合もある。
ウ.不真正不作為犯の因果関係が認められるためには,期待された作為をしていれば結果が発生しなかったことが,合理的な疑いを超える程度に確実であったことが必要である。
エ.不真正不作為犯は,殺人罪や放火罪については成立するが,財産犯については成立しない。
オ.不作為による放火罪が成立するためには,既発の火力を利用する意思は必ずしも必要ではない。
1.ア ウ  2.ア オ  3.イ ウ  4.ウ エ  5.ウ オ

解答 5

KKH0170H28-01K 不真正不作為犯 A

学生A,B及びCは,不真正不作為犯の作為義務違反に関して次の【会話】のとおり検討している。【会話】中の①から⑤までの( )内から適切な語句を選んだ場合,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。ただし,【会話】中の「法律上の防止義務」とは,法令,法律行為,条理等に基づき法益侵害を防止する法的義務をいい,また,いずれの事例も結果回避は容易であったとする。
【会 話】
学生A.「甲は,人通りの多い市街地で自動車を運転していた際,誤って乙を跳ねて重傷を負わせたが,怖くなったことから,乙を放置したまま逃走したところ,乙が死亡した。」という事例において,殺人罪の成否に関し,不真正不作為犯の作為義務を検討してみよう。私は,不真正不作為犯の作為義務違反は,法律上の防止義務を負う者が,法益侵害への因果関係を具体的・現実的に支配している状況下で防止措置を採らなかった場合に認められると考えるので,甲には作為義務違反が①(a.認められる・b.認められない)ことになる。
学生B.私は,不真正不作為犯の作為義務違反は,法律上の防止義務を負う者が,既に発生している法益侵害の危険を利用する意思で防止措置を採らなかった場合に認められると考えるので,この事例では,甲には作為義務違反が②(a.認められる・b.認められない)ことになる。
学生C.私は,不真正不作為犯の作為義務違反は,法益侵害に向かう因果の流れを自ら設定した者が,その法益侵害の防止措置を採らなかった場合に認められると考えるので,この事例では,甲には作為義務違反が③(a.認められる・b.認められない)ことになる。
学生A.次に,「一人暮らしをしている丙は,自宅に遊びに来ていた丁が帰った後,丁のたばこの火の不始末でカーテンが燃えているのに気付いたが,家に掛けてある火災保険の保険金を手に入れようと考え,そのまま放置して外出したところ,カーテンの火が燃え移って家が全焼した。」という事例において,非現住建造物等放火罪の成否に関し,不真正不作為犯の作為義務を検討してみよう。C君の立場からだと,丙には作為義務違反が④(a.認められる・b.認められない)ことになるよね。
学生B.先ほど話した私の立場からは,今の事例では,丙には作為義務違反が⑤(a.認められる・b.認められない)ことになる。
1.①a ②b ③a ④a ⑤b
2.①a ②a ③b ④a ⑤b
3.①b ②a ③a ④b ⑤b
4.①b ②b ③a ④b ⑤a
5.①b ②b ③b ④a ⑤a

解答 4

KH0180R01-01K 不作為犯 A

次の【事例】及び【判旨】に関する後記1から5までの各【記述】のうち,正しいものを2個選びなさい。(問改)
【事 例】
甲は,自動車内でVにクロロホルムを吸引させて失神させた上,約2キロメートル離れた港までVを運び,自動車ごと海中に転落させて溺死させようという計画の下,Vにクロロホルムを吸引させた。甲は,Vが動かなくなったので,計画どおりVが失神したものと考え,港に運んで自動車ごと海中に転落させた。Vの遺体の司法解剖の結果,甲の計画とは異なり,Vは溺死ではなく,海中への転落前にクロロホルムの吸引により死亡していたことが判明した。
【判 旨】
甲の殺害計画は,クロロホルムを吸引させてVを失神させた上(以下「第1行為」という。),その失神状態を利用してVを港まで運び,自動車ごと海中に転落させ(以下「第2行為」という。)溺死させるというものであって,第1行為は第2行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠なものであったといえること,第1行為に成功した場合,それ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存しなかったと認められることや,第1行為と第2行為との間の時間的場所的近接性などに照らすと,第1行為は第2行為に密接な行為であり,甲が第1行為を開始した時点で既に殺人に至る客観的な危険性が明らかに認められるから,その時点において殺人罪の実行の着手があったものと解するのが相当である。
【記 述】
1.ダンプカーに女性を引きずり込んで数キロメートル離れた人気のない場所まで連れて行き性交しようという計画の下,抵抗する女性をダンプカーに引きずり込んだ上,計画どおり性交したが,引きずり込もうとした段階で加えた暴行により同女が負傷したという事例において強制性交等致傷罪の成立を認める見解は,実行の着手時期に関してこの判旨の考え方と矛盾する。(問改)
2.この判旨は,甲がVにクロロホルムを吸引させた場所と殺害計画を実行しようとしていた港との距離が約2キロメートルの距離にあったということを,実行の着手時期を決する上で考慮している。
3.この判旨が第1行為を開始した時点で殺人罪の実行の着手を認めたのは,第1行為自体によってVの死の結果が生じることを甲が認識・認容していたことを前提としている。
4.この判旨の立場に立てば,甲が第1行為によってVが死亡していることに気付き,自動車ごとVを海中に転落させる行為に及ばなかった場合でも,甲に殺人既遂罪が成立する。
5.この判旨の立場に立てば,第1行為を行ってもそれ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存在していたような場合には,甲に殺人未遂罪と重過失致死罪が成立することになる。

解答 5

KH0190H24-03 早すぎた構成要件の実現 A

次の【事例】及び【判旨】に関する後記1から5までの各【記述】のうち,正しいものを2個選びなさい。(問改)
【事 例】
甲は,自動車内でVにクロロホルムを吸引させて失神させた上,約2キロメートル離れた港までVを運び,自動車ごと海中に転落させて溺死させようという計画の下,Vにクロロホルムを吸引させた。甲は,Vが動かなくなったので,計画どおりVが失神したものと考え,港に運んで自動車ごと海中に転落させた。Vの遺体の司法解剖の結果,甲の計画とは異なり,Vは溺死ではなく,海中への転落前にクロロホルムの吸引により死亡していたことが判明した。
【判 旨】
甲の殺害計画は,クロロホルムを吸引させてVを失神させた上(以下「第1行為」という。),その失神状態を利用してVを港まで運び,自動車ごと海中に転落させ(以下「第2行為」という。)溺死させるというものであって,第1行為は第2行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠なものであったといえること,第1行為に成功した場合,それ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存しなかったと認められることや,第1行為と第2行為との間の時間的場所的近接性などに照らすと,第1行為は第2行為に密接な行為であり,甲が第1行為を開始した時点で既に殺人に至る客観的な危険性が明らかに認められるから,その時点において殺人罪の実行の着手があったものと解するのが相当である。
【記 述】
1.ダンプカーに女性を引きずり込んで数キロメートル離れた人気のない場所まで連れて行き性交しようという計画の下,抵抗する女性をダンプカーに引きずり込んだ上,計画どおり性交し
たが,引きずり込もうとした段階で加えた暴行により同女が負傷したという事例において強制性交等致傷罪の成立を認める見解は,実行の着手時期に関してこの判旨の考え方と矛盾する。(問改)
2.この判旨は,甲がVにクロロホルムを吸引させた場所と殺害計画を実行しようとしていた港との距離が約2キロメートルの距離にあったということを,実行の着手時期を決する上で考慮
している。
3.この判旨が第1行為を開始した時点で殺人罪の実行の着手を認めたのは,第1行為自体によってVの死の結果が生じることを甲が認識・認容していたことを前提としている。
4.この判旨の立場に立てば,甲が第1行為によってVが死亡していることに気付き,自動車ごとVを海中に転落させる行為に及ばなかった場合でも,甲に殺人既遂罪が成立する。
5.この判旨の立場に立てば,第1行為を行ってもそれ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存在していたような場合には,甲に殺人未遂罪と重過失致死罪が成立することになる。

解答 2,4

KH0250H24-18K 因果関係 A

次の【事例及び裁判所の判断】に関する後記1から5までの各【記述】のうち,誤っているものはどれか。
【事例及び裁判所の判断】
被告人ら複数名が,被害者に対し,マンションの居室内において,長時間にわたって激しい暴行を加えたところ,被害者が,隙を見て同居室から逃走した上,被告人らに極度の恐怖感を抱き,その追跡から逃れるため,逃走を開始してから約10分後,上記マンションから約800メートル離れた高速道路内に進入し,疾走してきた自動車に衝突されて死亡したという傷害致死被告事件において,裁判所は,「被害者が逃走しようとして高速道路に進入したことは,危険な行為ではあるが,被害者は,被告人らの激しい暴行を受けて極度の恐怖感を抱き,必死に逃走を図る過程で,とっさにそのような行動を選択したものと認められ,その行動が,被告人らの暴行から逃れる方法として,著しく不自然,不相当であったとはいえない。そうすると,被害者が高速道路に進入して死亡したのは,被告人らの暴行に起因するものと評価することができるから,被告人らの暴行と被害者の死亡との間の因果関係は肯定することができる。」旨の判断を示した。
【記 述】
1.この裁判所の考え方によれば,上記事例において,高速道路内に進入する以外に被害者にとって容易にとり得る他の安全な逃走経路があり,そのことを被害者が認識していたにもかかわらず,あえて被害者が高速道路に進入した場合には,因果関係を否定する判断に結び付きやすいといえる。
2.この裁判所の考え方は,被告人らの行為の危険性が現実化したか否かという観点から,逃走した被害者の行動が,被告人らの暴行による心理的・物理的な影響に基づくか否かを検討することによって,因果関係の存否を判断しているものと評価することも可能である。
3.この裁判所の考え方によれば,上記事例において,被告人らが被害者に加えた暴行が短時間かつ軽微なもので,被害者も強い恐怖感を抱かなかった場合には,因果関係を否定する判断に結び付きやすいといえる。
4.この裁判所の考え方は,被告人らの行為と被害者の死亡の結果との間に事実的なつながり(条件関係)が存在することを前提にした上で,被告人らの行為の後に被害者による危険な逃走行為が介在した場合における因果関係の存否を判断していると評価することも可能である。
5.この裁判所の考え方によれば,上記事例において,被害者が暴行を受けたマンションの居室から逃げ出し,同マンションに面した一般道路に慌てて飛び出したところ,自動車に衝突されて死亡したという場合であれば,因果関係を否定する判断に結び付きやすいといえる。

解答 2,4

KH0260H26-05K 因果関係 A

次の【事例】及び【判旨】に関する後記1から5までの各【記述】のうち,正しいものはどれか。
【事 例】
スキューバダイビングの潜水指導者である被告人は,夜間,指導補助者としての経験が極めて浅く夜間潜水の経験も数回の指導補助者と,潜水経験に乏しく技術が未熟で夜間潜水の経験のない受講生を連れて,夜間潜水の講習指導を開始した。被告人は,指導補助者及び受講生と共に潜水を開始し,途中,魚を捕えて受講生に見せた後,再び移動を開始したが,その際,指導補助者と受講生がそのまま自分に付いてくるものと考え,指導補助者に特別の指示を与えることなく,後方を確認しないまま前進した。この間,指導補助者と受講生は,魚の動きに気をとられて被告人の移動に気付かず,海流によって沖に流された。これにより,被告人は指導補助者と受講生を見失い,他方,指導補助者は被告人を探して沖に向かって数十メートル水中移動を行い,受講生もこれに追随した。指導補助者は,受講生の圧縮空気タンク内の空気量が少なくなっていることを確認して一旦海上に浮上したものの,風波のため水面移動が困難であると判断し,受講生に再び水中移動を指示した。これに従った受講生は,自分の空気量を確認しないまま水中移動を続けたため,途中で空気を使い果たしてしまい,パニック状態に陥り,自ら適切な措置を採ることができないまま,でき死するに至った。
【判 旨】
被告人が,夜間潜水の講習指導中,受講生らの動向に注意することなく不用意に移動して受講生らのそばから離れ,同人らを見失うに至った行為は,それ自体が,指導者からの適切な指示,誘導がなければ事態に適応した措置を講ずることができないおそれがあった受講生をして,海中で空気を使い果たし,ひいては適切な措置を講ずることもできないままに,でき死させる結果を引き起こしかねない危険性を持つものであり,被告人を見失った後の指導補助者及び受講生に適切を欠く行動があったことは否定できないが,それは被告人の上記行為から誘発されたものであって,被告人の行為と受講生の死亡との間の因果関係を肯定するに妨げないというべきである。
【記 述】
1.【判旨】は,行為時に一般人が認識・予見が可能であった事情及び行為者が特に認識・予見していた事情を考慮して因果関係の有無を判断する見解に立つことを示している。
2.【判旨】は,被告人の行為と結果発生との間の因果関係の有無を判断するに際し,その間に介在した被害者である受講生の行動と被告人の行為との関係を考慮していない。
3.【判旨】は,被告人の行為の危険性が結果へと現実化したか否かによって,被告人の行為と結果発生との間の因果関係の有無を判断したものと理解することができる。
4.【判旨】は,被告人の行為と結果発生との間に条件関係が認められれば,因果関係を肯定することを示している。
5.【判旨】は,被告人の行為が結果発生の危険性を有するものである場合には,第三者である指導補助者の適切を欠くどのような行為が介在したとしても,その行為は被告人の行為によ
り誘発されたことになるとしている。

解答 3

KH0270H27-03 因果関係 A

次のアからオまでの各事例を判例の立場に従って検討し,( )内の甲の行為とVの死亡との間に因果関係が認められる場合には1を,認められない場合には2を選びなさい。
ア.甲は,自宅に遊びに来た友人Vの態度に腹を立て,その頭部を平手で1回殴打したところ,Vが家から出て行ったので,謝りながらVを追い掛けた。Vは,甲が謝りながら追い掛けてきたことに気付いたが,甲と話をしたくなかったので,甲に追い付かれないように,あえて遮断機が下りていた踏切に入ったところ,列車にひかれ,内臓破裂により死亡した。(甲がVの頭部を平手で1回殴打した行為)
イ.甲は,マンション4階の甲方居間で,Vの頭部や腹部を木刀で多数回殴打した。Vは,このままでは殺されると思い,甲の隙を見て逃走することを決意し,窓からすぐ隣のマンションのベランダに飛び移ろうとしたが,これに失敗して転落し,脳挫滅により死亡した。(甲がVの頭部や腹部を木刀で多数回殴打した行為)
ウ.甲は,Vに致死量の毒薬を飲ませたが,その毒薬が効く前に,Vは,事情を知らない乙に出刃包丁で腹部を刺されて失血死した。(甲がVに致死量の毒薬を飲ませた行為)
エ.甲は,路上でVの頭部を木刀で多数回殴打し,これにより直ちに治療しなければ数時間後には死亡するほどの脳出血を伴う傷害をVに負わせ,倒れたまま動けないVを残して立ち去った。そこへ,たまたま通り掛かった事情を知らない乙が,Vの頭部を1回蹴り付け,Vは,当初の脳出血が悪化し,死期が若干早まって死亡した。(甲がVの頭部を木刀で多数回殴打した行為)
オ.甲は,面識のないVが電車内で酔って絡んできたため,Vの顔面を拳で1回殴打したところ,もともとVは特殊な病気により脳の組織が脆弱となっており,その1回の殴打で脳の組織が崩壊し,その結果Vが死亡した。(甲がVの顔面を拳で1回殴打した行為)

解答 ア2,イ1,ウ2,エ1,オ1

KH0280H28-05K 因果関係 A

因果関係に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討し,正しいものを2個選びなさい。
1.甲が,殺害目的でVの首を両手で絞め,失神してぐったりとしたVを死んだものと誤解し,死体を隠すつもりでVを雪山に運んで放置したところ,Vは意識を回復しないまま凍死した。甲がVの首を両手で絞めた行為とVの死亡との間には,因果関係がない。
2.甲が,心臓発作を起こしやすい持病を持ったVを突き飛ばして尻餅をつくように路上に転倒させたところ,Vはその転倒のショックで心臓発作を起こして死亡した。Vにその持病があることを甲が知り得なかった場合でも,甲がVを突き飛ばして路上に転倒させた行為とVの死亡との間には,因果関係がある。
3.甲は,Vの頸部を包丁で刺し,Vは,同刺創に基づく血液循環障害による脳機能障害により死亡した。その死亡するまでの経過は,Vは,受傷後,病院で緊急手術を受けて一命をとりとめ,引き続き安静な状態で治療を継続すれば数週間で退院することが可能であったものの,安静にすることなく病室内を歩き回ったため治療の効果が上がらず,同脳機能障害により死亡したというものであった。この場合でも,甲がVの頸部を包丁で刺した行為とVの死亡との間には,因果関係がある。
4.甲は,深夜,市街地にある道幅の狭い車道上に無灯火のまま駐車していた普通乗用自動車の後部トランクにVを閉じ込めて監禁したが,数分後,たまたま普通乗用自動車で通り掛かった乙が居眠り運転をして同車を甲の普通乗用自動車の後部トランクに衝突させ,Vは全身打撲の傷害を負い死亡した。甲がVをトランクに監禁した行為とVの死亡との間には,因果関係がない。
5.甲は,ホテルの一室で未成年者Vに求められてその腕に覚せい剤を注射したところ,その場でVが錯乱状態に陥った。甲は,覚せい剤を注射した事実の発覚を恐れ,そのままVを放置して逃走し,Vは覚せい剤中毒により死亡した。Vが錯乱状態に陥った時点で甲がVに適切な治療を受けさせることによりVを救命できた可能性が僅かでもあれば,甲がVを放置した行為とVの死亡との間には,因果関係がある。

解答 2,3

KH0290H29-01Y 因果関係 A

因果関係に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討し,正しいものを2個選びなさい。
1.甲が,Vの胸部,腹部及び腰部を殴打したり足蹴りしたりする暴行を加えたところ,それに耐えかねたVは,その場から逃走した際,逃げることに必死の余り,過って路上に転倒し,縁石に頭部を打ち付けたことによって,くも膜下出血により死亡した。この場合,甲の暴行とVの死亡との間には,因果関係がある。
2.甲が,Vを突き倒し,その胸部を踏み付ける暴行を加え,Vに血胸の傷害を負わせたところ,Vは,Vの胸腔内に貯留した血液を消滅させるため医師が投与した薬剤の影響により,かねてVが罹患していた結核性の病巣が変化して炎症を起こし,同炎症に基づく心機能不全により死亡した。この場合,甲の暴行とVの死亡との間には,因果関係がない。
3.甲は,自動車を運転中,過って同車をVに衝突させてVを同車の屋根に跳ね上げ,その意識を喪失させたが,Vに気付かないまま同車の運転を続けるうち,同車の助手席に同乗していた乙がVに気付き,走行中の同車の屋根からVを引きずり降ろして路上に転落させた。Vは,頭部打撲傷に基づくくも膜下出血により死亡したところ,同傷害は,自動車と衝突した際に生じたものか,路上に転落した際に生じたものかは不明であった。この場合,甲の衝突行為とVの死亡との間には,因果関係がある。
4.甲は,狩猟仲間のVを熊と誤認して猟銃弾を1発発射し,Vの大腿部に命中させて大量出血を伴う重傷を負わせた直後,自らの誤射に気付き,苦悶するVを殺害して逃走しようと決意し,更に至近距離からVを目掛けて猟銃弾を1発発射し,Vの胸部に命中させてVを失血により即死させた。Vの大腿部の銃創は放置すると十数分で死亡する程度のものである一方,胸部の銃創はそれ単独で放置すると半日から1日で死亡する程度のものであった。この場合,甲の2発目の発射行為とVの死亡との間には,因果関係がない。
5.甲は,Vの頭部を多数回殴打する暴行を加えた結果,Vに脳出血を発生させて意識喪失状態に陥らせた上,Vを放置して立ち去った。その後,Vは,甲とは無関係な乙から角材で頭頂部を殴打される暴行を加えられ,死亡するに至った。Vの死因は甲の暴行により形成された脳出血であり,乙の暴行は,既に発生していた脳出血を拡大させ,幾分か死期を早める影響を与えるものであった。この場合,甲の暴行とVの死亡との間には,因果関係がある。

解答 1,5

KH0300H30-19 因果関係 A

次の【見解】に従って後記の【事例】及び各【記述】を検討した場合,【事例】よりも逮捕監禁行為と死亡との間の因果関係を肯定する判断に結び付きやすいものは,後記1から5までの各【記述】のうちどれか。
【見 解】
因果関係の存否は,行為の危険性が結果に現実化したものと評価できるかどうかで判断すべきであり,その評価に当たっては,介在事情の異常性と結果への寄与度を考慮すべきである。
【事 例】
Aは,普通乗用自動車(以下「A車」という。)後部のトランク内にVを押し込み,トランクカバーを閉めて脱出不能にしA車を発進走行させた後,市街地の路上で停車させた。A車の停車場所は,片側1車線のほぼ直線の道路上であった。A車が停車して数分後,後方からXが運転する普通乗用自動車(以下「X車」という。)が走行してきたが,Xは前方不注視(脇見運転)のため,A車の後部に真後ろからX車を追突させた。これによって同トランク内に閉じ込められていたVは傷害を負い,救助が得られないまま同傷害により死亡した。
【記 述】
1.上記【事例】において,仮に,A車の停車場所が片側3車線道路の道路端に設けられた路上駐車場であった場合
2.上記【事例】において,仮に,Aが,A車後部のトランク内にVを押し込み,トランクカバーを閉める際に同カバーをVに強く打ち付ける暴行を加えてVに重度の傷害を負わせ,その結果,X車の追突時にはVが既に瀕死状態に陥っており,X車の追突により同傷害が悪化してVの死期が幾分早まった場合
3.上記【事例】において,仮に,Vが,X車の追突直後,通行人の通報により臨場した救急車で病院へ搬送されたが,同病院の医師の重大な医療過誤により死亡した場合
4.上記【事例】において,仮に,Xが,A車後部のトランク内にVが閉じ込められていることを知っており,Vを殺害する目的で,あえてX車をA車に追突させた場合
5.上記【事例】において,仮に,駐車中のA車にX車が追突せず,飛行中のヘリコプターが墜落してA車に衝突し,これによってVが傷害を負って死亡した場合

解答 2

KH0310R01-05K 因果関係 A

次の各【見解】と後記の各【事例】を前提として,後記アからエまでの各【記述】を検討し,正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。
【見 解】
A.行為当時,客観的に存在した全ての事情及び行為後に生じた事情のうち一般人が予見できた事情を判断の基礎とし,その行為から結果が発生することが相当であると認められる場合に因果関係を肯定する。
B.一般人が認識・予見できたであろう事情及び行為者が認識・予見していた事情を判断の基礎とし,その行為から結果が発生することが相当であると認められる場合に因果関係を肯定する。
C.行為の危険性が結果へと現実化したといえる場合に因果関係を肯定する。行為の危険性は行為時に存在した全ての事情を基礎として判断する。
【事 例】
Ⅰ.甲は,乙の顔面を手拳で1回殴打した。その殴打は,それだけで一般に人を死亡させるほどの強さではなかったが,乙はもともと特殊な病気により脳組織が脆弱となっており,その1回の殴打で脳組織が崩壊し,その結果,乙が死亡した。
Ⅱ.甲は,乙の首をナイフで突き刺し,直ちに治療しなければ数時間のうちに死亡するほどの出血を来す傷害を負わせた。乙は,直ちに病院で適切な医療処置を受け,一旦容体が安定したが,その後,医師の指示に従わず安静に努めなかったため,治療の効果が減殺され,前記傷害に基づき死亡した。
Ⅲ.甲は,路上で乙の頭部を激しく殴打し,直ちに治療しなければ1日後には死亡するほどの脳出血を伴う傷害を負わせ,倒れたまま動けない乙を残して立ち去った。そこへたまたま通り掛かった無関係の通行人が,乙の腹部を多数回蹴って,内臓を破裂させ,数時間後に乙は内臓破裂により死亡した。
【記 述】
甲の行為と乙の死亡との間の因果関係については,
ア.Ⅰの事例で,行為当時,乙は特殊な病気により脳組織が脆弱となっていることを一般人は認識できず,甲も認識していなかった場合,A及びCの見解からは肯定され,Bの見解からは否定される。
イ.Ⅰの事例で,行為当時,乙は特殊な病気により脳組織が脆弱となっていることを一般人は認識できず,甲も認識していなかったが,甲はこれを認識できた場合,AからCまでのいずれの見解からも肯定される。
ウ.Ⅱの事例で,行為当時,乙が治療を受けた後,医師の指示に従わず安静に努めなくなることを一般人は予見できなかったが,甲は予見していた場合,Bの見解からは肯定され,A及びCの見解からは否定される。
エ.Ⅲの事例で,行為当時,乙が通行人に蹴られることを一般人は予見できず,甲も予見していなかった場合,AからCまでのいずれの見解からも否定される。

解答 ア1,イ2,ウ2,エ1

KH0311R03-11Y 因果関係 A

因果関係に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合,誤っているものの個数を後記1から5までの中から選びなさい。
ア.甲は,他の共犯者5名と共に,約3時間にわたり,マンションの一室において,Vの頭部,腹部等を木刀で多数回殴打していたところ,これにより極度の恐怖感を抱いたVが,同室から逃走し,甲らによる追跡から逃れるために,同マンション付近にある高速道路に進入し,疾走してきた自動車に衝突され,死亡した。この場合,甲らの上記殴打行為とVの死亡との間に,因果関係はない。
イ.甲は,Vの頸部を包丁で刺突し,致命傷になり得る頸部刺創の傷害をVに負わせたところ,Vは,病院で緊急手術を受けたため一命をとりとめ,引き続き安静な状態で治療を継続すれば数週間で退院することが可能となったが,安静にせず,病室内を歩き回ったことから治療の効果が上がらず,同頸部刺創に基づく血液循環障害による肝機能障害により死亡した。この場合,甲の上記刺突行為とVの死亡との間に,因果関係はない。
ウ.甲は,Vの顔面を1回足で蹴ったところ,特殊な病気により脆弱となっていたVの脳組織が崩壊してVが死亡したが,当該病気の存在について,一般人は認識することができず,甲も認識していなかった。この場合,甲の上記足蹴り行為とVの死亡との間に,因果関係はない。
エ.甲は,医師資格のない柔道整復師であるところ,自己に全幅の信頼を寄せるVから,風邪の治療について相談を持ち掛けられた際に,Vに対し,食事や水分補給を控える一方,発汗を促すという医学的に明らかに誤った治療法を繰り返して指示し,これに忠実に従ったVが症状を悪化させ,脱水症状に陥り,死亡した。この場合,甲の上記指示行為とVの死亡との間に,因果関係はない。
オ.甲は,自動車を運転中,路上で過失により通行人Vに同車を衝突させてVを同車の屋根に跳ね上げ,意識を喪失したVに気付かないまま,同車の運転を続けていたところ,同乗者がVに気付き,走行中の同車の屋根からVを引きずり降ろして路上に転落させ,Vは,頭部打撲に基づく脳くも膜下出血により死亡したが,これが同車との衝突の際に生じたものか,路上に転落した際に生じたものかは不明であった。この場合,甲の上記衝突行為とVの死亡との間に,因果関係はない。
 
1.1個  2.2個  3.3個  4.4個  5.5個

解答 4 ア×,イ×,ウ×,エ×,オ〇

KH0320H25-07Y 故意 A

次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討し,誤っているものを2個選びなさい。
1.暴力団組長甲は,配下組員乙に対し,「もし,Aがこちらの要求を聞き入れなかったら,Aを殺してこい。Aがこちらの要求を聞き入れるのであれば,Aを殺す必要はない。」旨指示し,乙にけん銃を手渡した上,乙を対立する暴力団組員Aのところに行かせた。乙は,Aが要求を聞き入れなかったので,Aをけん銃で射殺した。甲には殺人罪の故意が認められる。
2.甲は,駐車場で他人の所有する自動車に放火し,公共の危険を生じさせた。その際,甲は,公共の危険が発生するとは認識していなかった。甲には建造物等以外放火罪の故意は認められない。
3.甲は,乙から,乙が窃取してきた貴金属類を,乙が盗んできたものかもしれないと思いながら,あえて買い取った。甲には盗品等有償譲受け罪の故意が認められる。
4.覚せい剤が含まれている錠剤を所持していた甲は,同錠剤について,身体に有害で違法な薬物類であるとの認識はあったが,覚せい剤や麻薬類ではないと認識していた。甲には覚せい剤取締法違反(覚せい剤所持)の罪の故意が認められる。
5.甲は,Aを殺害しようと考え,Aに向けてけん銃を発射し,弾丸をAに命中させ,Aを死亡させたが,同弾丸は,Aの身体を貫通し,甲が認識していなかったBにも命中し,Bも死亡した。甲にはA及びBに対する殺人罪の故意が認められる。

解答 2,4

KH0370H24-07K 錯誤 A

次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討し,誤っているものを2個選びなさい。
1.甲は,Aを川の中に突き落として溺死させようと思い,橋の側端に立っていたAを突き飛ばしたところ,Aは落下する途中で橋脚に頭部を強打して即死した。甲には殺人既遂罪が成立する。
2.甲は,乙に対し,Aを殺害するよう唆したところ,乙は,その旨決意し,夜道で待ち伏せした上,歩いてきた男をAだと思って包丁で刺し殺したが,実際には,その男はBであった。甲には殺人既遂罪の教唆犯が成立する。
3.甲は,隣人Aの居宅の玄関前に置いてあった自転車を,Aの所有物と認識して持ち去ったが,実際には,同自転車は無主物だった。甲には遺失物等横領罪が成立する。
4.甲は,駐車場に駐車中のA所有の自動車を見て,Aに対する腹いせに傷つけてやろうと思って石を投げたが,狙いがそれて,その隣に駐車中のB所有の自動車に石が当たってフロントガラスが割れた。甲には器物損壊罪が成立する。
5.甲は,乙との間で,Aに暴行を加えることを共謀したところ,乙は,Aに対して暴行を加えている最中に興奮のあまり殺意を生じ,Aを殺害してしまった。甲には傷害罪の共同正犯が成立するにとどまる。

解答 3,5

KH0380H25-19 錯誤 A

次の【事例】及び【見解】に関する後記1から5までの各【記述】のうち,正しいものはどれか。
【事 例】
Aは,殺意をもって,Bを狙い,けん銃を発射したところ,その弾丸がBを貫き,たまたまBの背後を通行中のCにも命中したが,B,C共に死亡しなかった。なお,Aは,けん銃を発射した時点で,Cの存在を認識していなかった。
【見 解】
犯罪の故意があるとするには,罪となるべき事実の認識を必要とするものであるが,犯人が認識した罪となるべき事実と現実に発生した事実とが必ずしも具体的に一致することを要するものではなく,両者が法定の範囲内において一致することをもって足りる。人を殺す意思のもとに殺害行為に出た以上,犯人の認識しなかった人に対してその結果が発生した場合にも,その結果について殺人の故意があり,Bに対する所為についてはもちろんのこと,Cに対する所為についても殺人未遂罪が成立し,両罪は観念的競合となる。
【記 述】
1.この【見解】によれば,甲が殺意をもって,乙を狙い,けん銃を発射したところ,弾丸が乙に命中したが,乙は死亡せず,乙を貫通した弾丸が甲が予期しなかった丙に命中して丙が死亡した場合,甲には,丙に対する殺人既遂罪が成立するが,乙に対する犯罪は成立しない。
2.この【見解】によれば,甲が殺意をもって,乙を狙い,けん銃を発射したところ,弾丸が乙に命中して乙が死亡し,乙を貫通した弾丸が甲が予期しなかった丙にも命中して丙も死亡した場合,甲には,乙に対する殺人既遂罪,丙に対する過失致死罪が成立する。
3.この【見解】に対しては,殺人罪は被害者ごとに成立する犯罪であるから,被害者の個別性は構成要件的に重要な事実であるとの批判がある。
4.この【見解】に対しては,いわゆる客体の錯誤の場合と方法の錯誤の場合とで故意の有無について結論が異なるのは不合理であるとの批判がある。
5.この【見解】に対しては,1人を殺す故意しかないのに,1人を殺した場合より処断刑が重くなるのは妥当ではないとの批判がある。

解答 3

KH0390H26-13K 錯誤 A

故意に関する次の各【見解】についての後記1から5までの各【記述】のうち,正しいものを2個選びなさい。
【見 解】
A説:故意の有無については,構成要件を基準にして判断すべきであり,殺人罪においては,行為者の認識した事実と発生した事実が,およそ「人を殺す」という点で一致していれば故意が認められる。
B説:故意の有無については,構成要件を基準にして判断すべきであるが,殺人罪においては,行為者の認識した事実と発生した事実が,「その人を殺す」という点で一致していなければ故意は認められない。
【記 述】
1.A説に対しては,客体の錯誤と方法の錯誤の区別が必ずしも明らかではない場合があり,その場合の故意の有無につき,どのように判断するのか明確ではないとの批判がある。
2.B説に対しては,故意以外の構成要件該当性は法益主体ごとに判断するのに,故意の有無についてのみ法益主体の相違を問題にしないのは論理的でないとの批判がある。
3.侵害が生じた客体に錯誤はないが,侵害に至る因果関係に錯誤がある場合の故意の有無について,A説かB説かによる差はない。
4.駅のホームにいた人を甲だと思い,甲を殺そうと考え,電車が近づいてきたときにその人をホームから突き落としてれき死させたところ,その人が甲ではなく,別人の乙であった場合,A説・B説のいずれによっても,乙に対する殺人罪の故意が認められることになる。
5.狩猟中,動く物体を見付け,これを日頃から恨みを抱いていた甲だと思い,甲を殺そうと考え,その動く物体を狙って猟銃を発砲し,これに弾丸を命中させたが,実際に弾丸が命中したのは,甲ではなく,甲の飼い犬であった場合,A説によれば器物損壊罪の故意が認められ,B説によれば同罪の故意が認められないことになる。

解答 3,4

KH0400H27-09 抽象的事実の錯誤 A

次の【事例】に関する1から5までの各【記述】を判例の立場に従って検討し,正しいものを2個選びなさい。
【事 例】
Aは,外国へ旅行に行った際,旅行先で知り合ったBから,荷物を預けるので手荷物として日本まで運んでほしいと依頼され,これを了承し,その荷物を日本に持ち込んだが,荷物の中身は
覚せい剤であった。なお,覚せい剤をみだりに日本に持ち込んだ場合には覚せい剤取締法の輸入罪が成立し,麻薬をみだりに日本に持ち込んだ場合には麻薬及び向精神薬取締法の輸入罪が成立するものとする。
【記 述】
1.Aは,Bから預かった荷物の中身は「薬物ではない。」と聞かされていたが,「薬物以外の何か違法なものかもしれない。」と思ってこれを日本に持ち込んだ場合,Aには覚せい剤取締法の輸入罪が成立する。
2.Aは,Bから預かった荷物の中身は「覚せい剤である。」と思ったものの,覚せい剤を日本に持ち込むことは法律上禁止されていないと考えてこれを日本に持ち込んだ場合,Aには覚せい剤取締法の輸入罪が成立する。
3.Aは,Bから預かった荷物の中身は「覚せい剤である。」と聞かされたものの,覚せい剤が違法な薬物であることを知らず,「覚せい剤とは高価な化粧品のことである。」と認識してこれを日本に持ち込んだ場合でも,「覚せい剤」という認識がある以上,Aには覚せい剤取締法の
輸入罪が成立する。
4.Aは,Bから預かった荷物の中身は「覚せい剤かもしれないし,もしかしたら麻薬かもしれない。」と思ってこれを日本に持ち込んだ場合,Aには客体の認識に錯誤があり,麻薬及び向精神薬取締法の輸入罪の法定刑が覚せい剤取締法の輸入罪の法定刑よりも軽いときには,Aには麻薬及び向精神薬取締法の輸入罪が成立する。
5.Aは,Bから預かった荷物の中身は「覚せい剤ではないが,麻薬である。」と思ってこれを日本に持ち込んだ場合,覚せい剤取締法の輸入罪の法定刑と麻薬及び向精神薬取締法の輸入罪の法定刑が同じときには,Aには覚せい剤取締法の輸入罪が成立する。

解答 2,5

KH0410H28-15K 事実の錯誤 A

学生A,B及びCは,事実の錯誤に関して,次の【会話】のとおり検討している。【会話】中の①から⑪までの( )内から適切な語句を選んだ場合,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。
【会 話】
学生A.Xが甲を狙って殺人の故意で拳銃を発射し,甲にかすり傷を負わせ,さらに,その弾丸が偶然に乙に命中して乙を死亡させた事例について考えてみよう。私は,同一の構成要件の範囲内であれば,故意を阻却しないと考え,故意の個数については,①(a.故意の個数を問題としない・b.故意の個数を問題とし一個の故意を認める)立場を採ります。ですから,私は,事例の場合,故意犯としては乙に対する殺人既遂罪のみが成立すると考えます。
学生B.私は,基本的にはA君と同じ立場ですが,故意の個数について,②(c.故意の個数を問題としない・d.故意の個数を問題とし一個の故意を認める)立場に立ちます。A君の考えだと,③(e.意図した・f.意図しない)複数の客体に既遂の結果が発生した場合,いずれの客体に故意犯を認めるのか不明だからです。
学生C.B君の立場は,④(g.罪刑法定主義・h.責任主義)に反することになりませんか。私は,この原則を尊重し,⑤(i.客体の錯誤・j.方法の錯誤)の場合には故意を認めますが,⑥(k.客体の錯誤・l.方法の錯誤)の場合には故意を認めるべきではないと思います。ですから,私は,事例の場合,乙に対する殺人既遂罪は成立しないと考えます。
学生A.でも,C君の立場では,方法の錯誤と客体の錯誤との明確な区別が可能であることが前提となりますね。また,未遂犯や過失犯を処罰する規定の有無によっては,処罰の範囲が不当に⑦(m.狭まる・n.広がる)ことになると思います。一方で,B君の立場では,処断刑が不当に重くなりませんか。
学生B.私は,甲に対する罪と乙に対する罪の関係を⑧(o.併合罪・p.観念的競合)と考えますので,処断刑はA君の立場による場合と同一となります。
学生A.でも,複数の客体に既遂の結果が発生した場合,⑨(q.意図した・r.意図しない)客体についての⑩(s.故意犯・t.過失犯)を,刑を⑪(u.重くする・v.軽くする)方向で量刑上考慮するとなると,やはり問題ではないでしょうか。
1.①b ②c ③f ④g ⑤j ⑥k ⑦m ⑧p ⑨q ⑩s ⑪v
2.①a ②d ③e ④g ⑤j ⑥k ⑦n ⑧o ⑨r ⑩t ⑪v
3.①b ②c ③f ④h ⑤i ⑥l ⑦m ⑧p ⑨r ⑩s ⑪u
4.①a ②d ③e ④h ⑤i ⑥l ⑦n ⑧o ⑨q ⑩s ⑪u
5.①b ②c ③f ④h ⑤i ⑥l ⑦n ⑧p ⑨r ⑩t ⑪u

解答 3

KH0420H29-03 故意 A

次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。
ア.甲は,乙を殺害する目的で,乙を含む複数の者の飲用に供されているペットボトル内のお茶に致死量の劇薬を投入した。その結果,そのお茶を飲用した複数の者全員が死亡した。この場合,甲には,前記お茶を飲用して死亡した者の数に応じた殺人罪の故意が認められる。
イ.覚せい剤を含有する粉末を所持していた甲は,同粉末が身体に有害で違法な薬物であることは認識していたが,覚せい剤や麻薬ではないと認識していた。この場合,甲には覚せい剤取締法違反(覚せい剤所持)の罪の故意が認められる。
ウ.甲は,客観的にはわいせつな文書を,その意味内容は理解しつつも,刑法上のわいせつな文書に該当しないと考え,多数の者に販売した。この場合,甲にわいせつ物頒布罪の故意は認められない。
エ.甲は,乙宅前路上に置かれていた自転車を,乙の所有物と認識して持ち去ったが,実際には同自転車は無主物だった。この場合,甲には遺失物横領罪が成立する。
オ.甲は,第三者が起こした交通事故により瀕死の重傷を負い路上に倒れていた乙を,既に死亡していると思って山中に遺棄した。この場合,甲に死体遺棄罪は成立しない。
1.ア エ  2.ア オ  3.イ ウ  4.イ オ  5.ウ エ

解答 2

KH0430H30-04Y 故意 A

故意に関する次の各【見解】に従って後記1から5までの各【事例】における甲の罪責を検討した場合,いずれの【見解】に従うかによって,結論が異なるものはどれか。
【見 解】
A説:行為者が認識していた事実と発生した事実とが,構成要件的評価として一致する限り,発生した事実についての故意が認められ,殺人罪においては,客体が「およそ人」という点で一致していれば故意が認められる。
B説:行為者が認識していた事実と発生した事実とが,具体的に一致しない限り,発生した事実についての故意は否定され,殺人罪においては,客体が「その人」という点で一致していなければ故意は認められない。
【事 例】
1.甲は,Vを殺そうと考えてVの首を絞め,Vが動かなくなったので死亡したものと思い,Vを海岸の砂上まで運び放置したところ,Vが砂を吸引したことにより死亡した。
2.甲は,Vが連れている犬を殺そうと考え,その犬を狙って猟銃を発射したが,犬をかばおうとしたVに弾丸が当たり,Vを死亡させた。
3.甲は,前方を歩いていた人をV1と思い,V1を殺そうと考え,その人を狙って拳銃を発射し弾丸を命中させて死亡させたが,その人はV1ではなく,V2であった。
4.甲は,Vから殺してほしいと頼まれたので,Vを殺そうと考え,Vの首を絞めてVを死亡させたが,嘱託殺人が犯罪にならないと考えていた。
5.甲は,V1を殺そうと考え,V1を狙って拳銃を発射したが,弾丸がそれて,V1ではなく,そのそばにいたV2に当たり,V2を死亡させた。

解答 5

KH0431R02-19 故意 A

故意に関する次の各【見解】についての後記1から5までの各【記述】のうち,誤っているものはどれか。
【見 解】
A.故意の有無については,構成要件を基準にして判断すべきであるところ,殺人罪においては,行為者の認識した事実と発生した事実とが,「およそ人を殺す」という点で一致していれば故意が認められる。また,行為者の認識した客体に対しても,結果が発生した客体に対しても故意犯が成立する。
B.故意の有無については,構成要件を基準にして判断すべきであるところ,殺人罪においては,行為者の認識した事実と発生した事実とが,「その人を殺す」という点で一致していなければ故意は認められない。
【記 述】
1.甲が,Xを焼死させようと思い,Xの全身に灯油をかけて火をつけたところ,Xが熱さに耐えかね,火を消そうとして近くの湖に飛び込んで溺死したという事例においては,A,Bいずれの見解でも,甲に殺人既遂罪が成立する。
2.Aの見解に対しては,甲が殺意をもってXを狙い拳銃を発射したところ,弾丸がXの腕を貫通した上,予想外にYの胸部にも当たり,Xを負傷させるとともにYを死亡させたという事例において,行為者に過剰な故意責任を課すことになり,責任主義に反するとの批判がある。
3.Bの見解によれば,【記述】2の事例で,甲にYに対する殺人既遂罪が成立する。
4.Bの見解に対しては,客体の錯誤と方法の錯誤のいずれに当たるのかが必ずしも明らかではない場合において,故意の有無につき,どのように判断するのか明確ではないとの批判がある。
5.Bの見解によれば,甲がXを殺害しようと考え,Xと似た者を見付けて,Xと思い,その者をナイフで刺し殺したが,実際には,その者はYであったという事例において,甲にYに対する殺人既遂罪が成立する。

解答 3

KH0450H28-11 過失犯 A

過失犯に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものはどれか。
1.監督過失とは, 直接行為者が過失を犯さないように監督する注意義務に違反する過失をいう。監督過失を認めるには,直接行為者に構成要件的結果が発生することの予見可能性があれば足
り,直接行為者を監督すべき立場にある監督者には,構成要件的結果が発生することの予見可能性までは必要とされない。
2.重過失とは,注意義務違反の程度が著しく,それによって発生した構成要件的結果が重大なものをいう。
3.信頼の原則は,交通事故の過失犯だけに適用されるものであり,それ以外の過失犯に適用される余地はない。
4.注意義務に違反して人を負傷させた場合であっても,相手方に重大な過失があったときには,過失相殺が適用されるので,過失の責任を免れることができる。
5.過失犯の成立に必要な注意義務は,必ずしも法令上の根拠があることを要しない。

解答 5

KH0460H26-05Y 過失 B

過失に関する次の各【見解】についての後記1から5までの各【記述】のうち,誤っているものはどれか。
【見 解】
A説:過失の本質は,意思を緊張させたならば結果発生を予見することが可能であったにもかかわらず,これを予見しなかったことにある。
B説:過失の本質は,社会生活上必要な注意を守らないで,結果回避のための適切な措置を採らなかったことにある。
【記 述】
1.A説の立場からは,いわゆる信頼の原則は,予見可能性が否定される場合の一部を類型化したものと理解することができる。
2.B説は,過失犯は,行為の責任だけでなく,構成要件該当性と違法性においても故意犯と異なるものであるとの考え方と矛盾しない。
3.A説に対しては,予見可能性のみで過失を認めると,過失犯の処罰範囲が広がりすぎるとの批判がある。
4.B説に対しては,「結果回避のための適切な措置」につき,行政取締法規が定める義務に帰着せざるを得ず,刑法上の過失犯が行政取締法規の結果的加重犯となってしまうとの批判がある。
5.A説からは,結果の回避可能性の存在は過失犯の成立において必要ではないことになる。

解答 5

KH0470H30-03 過失犯の本質 B

過失犯の本質について,学生A及びBが次の【会話】のとおり議論している。【会話】中の①から④までの( )内に後記アからキまでの【発言】から適切なものを選んだ場合,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。
【会 話】
学生A.私は,過失犯の本質について,精神を緊張させたならば結果発生を予見することが可能であったにもかかわらず,これを予見しなかったことにあると考えています。私が採る見解では,過失犯の体系上,一般的に,(①)の判断において,信頼の原則を考慮することになります。
学生B.A君が採る見解に対しては,(②)という批判がありますね。私は,過失犯の本質について,社会生活上必要な注意を尽くさないで,結果回避のための適切な措置を採らなかったことにあると考えています。
学生A.B君が採る見解に対しては,「結果回避のための適切な措置」について,(③)という批判があります。また,B君が指摘した批判に対しては,私が採る見解でも,(④)ことにより,対応することができるとの反論ができます。
【発 言】
ア.予見可能性
イ.結果回避義務
ウ.行政取締法規が定める義務に帰着せざるを得ず,刑法上の過失犯が行政取締法規違反の結果的加重犯になってしまう
エ.予見可能性のみで過失を認めると,過失犯の処罰範囲が広くなり過ぎる
オ.重大な結果が予見可能であるにもかかわらず,それを回避する義務がないというのは妥当ではない
カ.実行行為の内容として実質的危険性を要求する
キ.予見可能性を結果回避義務を導く前提要件として位置付ける
1.①ア ②ウ ③エ ④キ
2.①ア ②エ ③ウ ④カ
3.①ア ②エ ③オ ④キ
4.①イ ②ウ ③オ ④カ
5.①イ ②エ ③ウ ④キ

解答 2

KH0490H25-15 過失 B

次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,誤っているものはどれか。 
1.罰則を定めた特別法の法条に,過失行為を処罰する旨の明文の規定がない場合であっても,当該特別法の目的から,罰則を定めた法条に過失行為を処罰する趣旨が包含されていると認められるときには,同法条が刑法第38条第1項ただし書に規定される特別の規定となり,過失による行為を処罰することが可能である。
2.業務上過失致死傷罪の「業務」とは,社会生活上の地位に基づいて反復継続して行われ,または,反復継続して行う意思をもって行われる行為であり,他人の生命・身体等に危害を加えるおそれがあるものをいう。
3.重過失致死傷罪の「重過失」とは,行為者としてわずかな注意を払えば,結果発生を予見することができ,結果の発生を回避できた場合をいう。
4.複数の行為者につき,行為者共同の注意義務が観念でき,行為者がその共同の注意義務に違反し,共同の注意義務違反と発生した結果との間に因果関係が認められる場合には,過失犯の共同正犯が成立し得る。
5.過失行為を行った者を監督すべき地位にある者の過失の有無を判断する際には,信頼の原則は適用されない。

解答 5

KH0500H29-11K 過失犯 A

次の【事例】に関する後記アからエまでの各【記述】を判例の立場に従って検討し,誤っているものを全て選んだ場合の組合せは,後記1から5までのうちどれか。
【事 例】
土木作業員甲及び乙は,現場監督者丙の監督の下で,X川に架かる鉄橋の橋脚を特殊なA鋼材を用いて補強する工事に従事していたが,作業に手間取り,工期が迫ってきたことから,甲及び乙の2人で相談した上で,より短期間で作業を終えることができる強度の弱いB鋼材を用いた補強工事を共同して行った。その結果,工期内に工事を終えることはできたものの,その後発生した豪雨の際,A鋼材ではなくB鋼材を用いたことによる強度不足のために前記橋脚が崩落し,たまたま前記鉄橋上を走行していたV1運転のトラックがX川に転落し,V1が死亡した。なお,甲及び乙は同等の立場にあり,甲及び乙のいずれについても,B鋼材を工事に用いた場合に強度不足のために前記橋脚が崩落することを予見していなかったものの,その予見可能性があったものとする。
【記 述】
ア.甲及び乙には,強度の弱いB鋼材で補強工事を行うことの意思連絡はあるが,不注意の共同はあり得ないから,甲及び乙に業務上過失致死罪の共同正犯が成立する余地はない。
イ.丙は,甲及び乙が強度の弱いB鋼材で補強工事を行っていることを認識していたが,工期が迫っていたことから,これを黙認したという場合,直接行為者である甲及び乙に過失が認められたとしても,更に丙に過失が認められる余地がある。
ウ.仮に,甲及び乙において,V1が死亡するに至る実際の因果経過を具体的に予見することが不可能であった場合,甲及び乙には業務上過失致死罪は成立しない。
エ.仮に,V1運転のトラックの荷台に,V1に無断でV2が乗り込んでおり,同トラックがX川に転落したことによって,V1及びV2の両名が死亡した場合,甲及び乙にはV2に対する業務上過失致死罪は成立しない。
1.ア イ ウ  2.ア ウ エ  3.ア エ  4.イ ウ  5.ウ エ

解答 2

KH0510R01-17 過失犯 B

過失犯に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討し,正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。
ア.刑法第38条第1項ただし書の「法律に特別の規定がある場合」とは,過失犯を処罰する旨の明文の規定がある場合に限られない。
イ.公務員が法令により付与された権限を行使するか否かについて,当該公務員に裁量が認められている場合,その権限の不行使を注意義務違反とする過失犯が成立することはない。
ウ.行政取締法規の義務は,過失犯の注意義務にもなるため,行政取締法規の義務を遵守する限り,他に慣習等から導かれる義務を遵守せずとも,過失犯が成立することはない。
エ.過失犯が成立するには,因果経過の予見可能性を要するため,現実の結果発生に至る経過を逐一具体的に予見できなければ,過失犯が成立することはない。
オ.業務上過失致死傷罪の「業務」とは,人が社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為であって,かつ,その行為が他人の生命身体等に危害を加えるおそれのあるものをいうため,他人の生命身体の危険を防止することを義務内容とする業務は,これに含まれない。

解答 ア1,イ2,ウ2,エ2,オ2

KH0511R03-01K 過失犯 A

過失犯に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものはどれか。
1.共同正犯に関する刑法第60条は,意思の連絡を要件としているので,過失犯には適用されない。
2.重過失とは,重大な結果を惹起する危険のある不注意な行為をすることをいう。
3.過失犯の成立に必要となる結果発生の予見可能性は,内容の特定しない一般的・抽象的な危惧感ないし不安感を抱く程度の予見の可能性で足りる。
4.行為者が法令に違反する行動をした事案においても信頼の原則が適用される場合がある。
5.ホテルの火災により死傷者が出た場合,火災発生時に現場にいなかったホテル経営者には業務上過失致死傷罪が成立することはない。

解答 4

第2編 犯罪 第3章 違法性

KH0540H30-07 同意傷害 A

学生A,B及びCは,次の【事例】における甲の罪責について,後記【会話】のとおり議論している。【会話】中の①から④までの( )内から適切なものを選んだ場合,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。
【事 例】
甲は,過失による自動車追突事故を偽装して保険会社から保険金を詐取することを計画し,乙に同計画を打ち明け,乙の真意に基づく同意を得た上で,自己の運転する自動車を乙が運転する自動車に追突させた。その結果,乙は軽微な傷害を負った。
【会 話】
学生A.被害者が自己の身体に対する傷害を同意した場合に傷害罪が成立するか否かにつき,私は,判例と①(a.同様の・b.異なる)立場に立っており,単に同意が存在するという事実だけではなく,その同意を得た動機,目的,身体傷害の手段,方法,損傷の部位,程度など諸般の事情を照らし合わせて,傷害罪の成否を決すべきであると考えます。乙の同意は,保険金詐取という違法な目的に利用するために得られた違法なものであり,これにより,乙に対する傷害行為の違法性が阻却されることはないので,甲には傷害罪が成立すると考えます。
学生B.A君の見解に対しては,②(c.個人の自己決定権を重視し過ぎている・d.不可罰である詐欺の予備行為を傷害罪で処罰することになる)という批判があります。
学生C.私は,乙の有効な同意がある限り,刑法によって保護すべき法益の侵害がないので,乙に対する傷害行為については,傷害罪の構成要件該当性を欠き,甲には傷害罪が成立しないと考えます。
学生A.C君の見解に対しては,③(e.傷害罪の処罰根拠と合理的な関連性のない事情を考慮し過ぎている・f.死亡の結果が発生した場合に傷害致死罪が不成立となるのは不当である)と批判することが可能です。
学生C.同意殺人罪に対応する同意傷害罪の規定がない以上,私の見解のように,同意傷害は不可罰であると解すべきです。
学生B.しかし,④(g.同意殺人罪の法定刑に比して傷害罪の法定刑は重い・h.同意殺人罪は,殺人罪の法定刑の下限の重さが考慮されて,その減軽類型として特に設けられたものである)ので,同意傷害罪の規定がないことは理由にならないと思います。
1.①a ②c ③e ④h
2.①a ②d ③f ④g
3.①a ②d ③f ④h
4.①b ②c ③e ④g
5.①b ②d ③f ④g

解答 3

KH0560H25-03 被害者の承諾 A

次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。
ア.甲は,医師免許を有していなかったが,女性乙に対し,医学的に必要とされる措置をとることなく豊胸手術を行った。女性乙が豊胸手術に伴う身体傷害につきあらかじめ甲に対して承諾していた場合,甲に傷害罪(刑法第204条)は成立しない。
イ.甲は,民事訴訟の証拠調べの期日において,証人として宣誓の上,虚偽の陳述をした。原告乙及び被告丙の双方とも甲が虚偽の陳述をすることにつきあらかじめ甲に対して承諾していた場合,甲に偽証罪(刑法第169条)は成立しない。
ウ.甲は,重病の母親乙の首をロープで絞めて殺害した。乙が殺害につきあらかじめ甲に対して承諾していた場合,甲に殺人罪(刑法第199条)は成立しない。
エ.甲は,12歳の女児乙の同意を得て,女児乙に対してわいせつな行為を行った。甲に準強制わいせつ罪(刑法第178条第1項)は成立しない。
オ.甲は,交通違反の取締りを受けた際,警察官に対し,乙の氏名を名乗り,交通事件原票の供述書欄に乙名義で署名押印した。乙が名義使用につきあらかじめ甲に対して承諾していた場合,甲に有印私文書偽造罪(刑法第159条第1項)は成立しない。
1.ア イ  2.イ ウ  3.ウ エ  4.エ オ  5.オ ア

解答 3

KH0570H29-07K 被害者の承諾 A

次の【記述】中の①から④までの( )内から適切な語句を選んだ場合,その組合せとして正しいものは,後記1から5までのうちどれか。
【記 述】
被害者の同意が問題となる場合としては,一般に以下のような分類がなされている。第1は,被害者の意思に反することが構成要件要素になっている場合であり,この類型においては,被害
者の同意は構成要件該当性を阻却する。窃盗罪は,この類型に①(a.入る・b.入らない)。第2は,被害者の同意の有無が犯罪の成立に影響を及ぼさない場合である。13歳未満の者に対するわいせつ行為は,この類型に②(c.入る・d.入らない)。第3は,被害者の同意がある場合とない場合が分けて規定され,被害者の同意があると軽い方の罪が成立する場合である。業務上堕胎罪は,この類型に③(e.入る・f.入らない)。第4は,被害者の同意が行為の違法性を阻却する場合である。住居侵入罪の「侵入」を住居権者・管理権者の意思に反する立入りと解した場合,同罪は,この類型に④(g.入る・h.入らない)。
1.①a ②c ③e ④h
2.①a ②c ③f ④h
3.①a ②d ③f ④g
4.①b ②c ③e ④h
5.①b ②d ③f ④g

解答 1

KH0580R01-09K 被害者の承諾 A

被害者の承諾に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものはどれか。
1.甲は,乙の承諾を得て,乙から借り受けた乙所有の重機を丙に転貸していたが,同重機の修理のため一時これを丙から預かった際,乙の承諾を得て,丙に無断で,自己の借金の返済として同重機を自己の債権者に譲渡した。この場合,甲には,横領罪が成立する。
2.甲は,自らが組長を務める暴力団の組員乙から,「暴力団を脱退したい。」との申出を受けたので,「落とし前として,指を詰めろ。」と言い,乙の承諾を得て,乙の右手小指の根元を出刃包丁で切断した。この場合,甲には,傷害罪は成立しない。
3.甲は,乙との不倫関係を清算しようと考え,真実は,乙と心中するつもりはないにもかかわらず,乙に対し,「あの世で一緒になろう。私も君の後を追って死ぬから。」と言って心中を持ちかけ,その旨誤信してこれを承諾した乙に毒薬を手渡したところ,乙がそれを飲んで死亡した。この場合,甲には,自殺関与罪が成立する。
4.甲は,知人乙から,「生活が苦しく刑務所に入りたいので,私から脅されたという事実をでっち上げて,私を告訴してほしい。」と依頼され,乙の承諾を得て,乙を脅迫罪で告訴した。この場合,甲には,虚偽告訴罪は成立しない。
5.甲は,自らが刑務官を務める刑務所で受刑中の成人女性乙と恋愛関係になり,乙の承諾を得て,勤務中,同刑務所内において,乙と性交した。この場合,甲には,特別公務員暴行陵虐罪が成立する。

解答 5

KH0590H30-05 違法性 A

違法性に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討し,正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。
ア.殺人被告事件の弁護人が,同被告事件の真犯人は被告人の兄であると考え,第一審の有罪判決後に行った記者会見で「同被告事件の真犯人は被告人の兄である。」旨発表した場合,弁護活動の一環として行ったものであるから,正当な業務行為として違法性が阻却され,名誉毀損罪は成立し得ない。
イ.宗教家が,異常な言動を示すようになっていた娘を連れてきた信者の求めに応じ,その娘の不調の原因を取り去る目的で,宗教上の行為として,同人の身体を手で押さえ付け,流れ落ちる滝の水を同人の顔面に打ち当てた結果,同人を窒息死させた場合,宗教活動の一環として行ったものであるから,正当な業務行為として違法性が阻却され,傷害致死罪は成立し得ない。
ウ.現行犯人を逮捕しようとする私人が,犯人から抵抗を受け,逮捕のために社会通念上必要かつ相当な範囲で実力を行使し同人に傷害を負わせた場合,法令による行為として違法性が阻却され,傷害罪は成立し得ない。
エ.借地人が,自己の借地内にある自己所有の店舗を増築する必要に迫られ,その借地内に突き出ている隣の家屋の屋根をその所有者の承諾なく切除した場合,自救行為として違法性が阻却され,建造物損壊罪は成立し得ない。
オ.新聞記者が,取材の目的で国家公務員に秘密漏示を唆した場合,取材の自由は憲法上保障される表現の自由に由来し,十分尊重されるべきであるから,正当な業務行為として違法性が阻却され,国家公務員法違反の罪(秘密漏示教唆罪)は成立し得ない。

解答 ア2,イ2,ウ1,エ2,オ2

KH0620H25-13K 正当防衛 A

正当防衛に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討し,誤っているものを2個選びなさい。
1.正当防衛について侵害の急迫性を要件としているのは,予期された侵害を避けるべき義務を課する趣旨ではないが,単に予期された侵害を避けなかったというにとどまらず,その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときは,侵害の急迫性の要件を欠く結果,そのような侵害に対する反撃行為に正当防衛が認められることはない。
2.憎悪や怒りの念を抱いて侵害者に対する反撃行為に及んだ場合には,防衛の意思を欠く結果,防衛のための行為と認められることはない。
3.相手からの侵害が,それに先立つ自らの攻撃によって触発されたものである場合には,不正の行為により自ら侵害を招いたことになるから,相手からの侵害が急迫性を欠く結果,これに対する反撃行為に正当防衛が認められることはない。
4.刑法第36条にいう「権利」には,生命,身体,自由のみならず名誉や財産といった個人的法益が含まれるので,自己の財産権への侵害に対して相手の身体の安全を侵害する反撃行為に及んでも正当防衛となり得る。
5.正当防衛における「やむを得ずにした」とは,急迫不正の侵害に対する反撃行為が,自己又は他人の権利を防衛する手段として必要最小限度のものであること,すなわち反撃行為が侵害に対する防衛手段として相当性を有するものであることを意味し,反撃行為が防衛手段として相当性を有する以上,その反撃行為により生じた結果がたまたま侵害されようとした法益より大であっても,その反撃行為が正当防衛でなくなるものではない。

解答 2,3

KH0640H24-02Y 正当防衛 A

正当防衛に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,誤っているものはどれか 。
1.刑法第36条にいう「急迫」とは,法益が侵害される危険が切迫していることをいい,被害の現在性を意味するものではない。
2.刑法第36条にいう「不正」とは,違法であることを意味し,侵害が全体としての法秩序に反することをいう。
3.刑法第36条にいう「権利」は個人的法益を指し,国家的法益や社会的法益は含まれない。
4.侵害者に対する攻撃的な意思を有していたとしても,防衛の意思が認められる場合がある。
5.けんか闘争において正当防衛が成立するかどうかを判断するに当たっては,闘争行為中の瞬間的な部分の攻防の態様のみに着眼するのではなく,けんか闘争を全般的に観察することが必要である。

解答 3

KH0650H27-07K 防衛の意思 A

学生Aと学生Bは,次の【事例】における甲の罪責について後記【会話】のとおり検討している。
【会話】中の①から⑧までの( )内から適切な語句を選んだ場合,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。
【事 例】
甲は,乙に対し,殺意をもって,拳銃の引き金を引いて銃弾1発を発射し,乙の胸部に命中させて乙を殺害した。甲が拳銃で乙に狙いを付ける直前,乙は,甲に対し,殺意をもって,拳銃で狙いを付けて引き金を引こうとしていたものの,甲が発射した銃弾によって死亡したことから,引き金を引くには至らなかった。なお,甲は,乙が拳銃で自己に狙いを付けていることを知らなかった。
【会 話】
学生A.甲の行為は,殺人罪の構成要件に該当する。そして,正当防衛の成立要件として,防衛の意思が必要であると考えると,甲には①(a.殺人既遂罪が成立し・b.正当防衛が認められ),防衛の意思は不要であると考えると,甲には②(c.殺人既遂罪が成立する・d.正当防衛が認められる)ことになる。
学生B.最近では,防衛の意思必要説,不要説のいずれからも,甲には殺人未遂罪が成立し得るという見解が有力に主張されている。防衛の意思必要説からの殺人未遂罪説は,違法性は行為無価値と結果無価値の総合から構成されるという違法二元論を根拠とし,③(e.行為無価値の存在と結果無価値の欠如・f.行為無価値の欠如と結果無価値の存在)を理由に,一方,防衛の意思不要説からの殺人未遂罪説は,④(g.適法・h.違法)な結果が発生する具体的危険があることを理由に,それぞれ殺人未遂罪が成立し得ると説明している。
学生A.しかし,防衛の意思不要説からの殺人未遂罪説に対しては,⑤(i.「侵害はよいが侵害を試みることは許されない」・j.「侵害を試みることはよいが侵害は許されない」)ことになるとの批判がある。
学生B.もともと,防衛の意思不要説からの殺人未遂罪説が問題にしている危険は,⑥(k.別のあり得た違法結果・l.当該結果)を発生させる危険ではなく,⑦(m.別のあり得た
違法結果・n.当該結果)を発生させる危険と言われている。だから,その批判は当たらない。
学生A.いずれにせよ,殺人未遂罪説は,実際に乙が死亡しているのだから,罪刑法定主義上,問題があると思う。
学生B.刑法第43条は,「犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった」と規定しており,これを,⑧(o.構成要件的結果・p.構成要件に該当する違法な結果)が発生しなかったという意味に理解すれば,文言解釈としての問題はないと思う。
1.①a ②d ③e ④h ⑤i ⑥k ⑦n ⑧o
2.①b ②c ③e ④g ⑤j ⑥k ⑦n ⑧p
3.①b ②c ③f ④g ⑤j ⑥k ⑦n ⑧o
4.①a ②d ③e ④h ⑤i ⑥l ⑦m ⑧p
5.①a ②d ③f ④h ⑤j ⑥l ⑦m ⑧p

解答 4

KH0660R01-15K 正当防衛 A

正当防衛に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものを2個選びなさい。
1.当然又はほとんど確実に侵害が予期された場合において,単に予期された侵害を避けなかったにとどまらず,その機会を利用して積極的に相手方に対し加害行為をする意思で暴行に及んだときは,その暴行行為については,正当防衛が成立する余地はない。
2.いわゆるけんか闘争において相手方に対してした暴行行為については,正当防衛が成立する余地はない。
3.手拳で殴る素振りをしながら「お前殴られたいのか。」と言って近付いてきた相手方を,殺傷能力のある刃物を構えて脅した場合,その脅迫行為については,正当防衛が成立する余地はない。
4.自己に対しナイフを示して脅している相手方に対し専ら攻撃の意思で暴行に及んだ場合,その暴行行為については,正当防衛が成立する余地はない。
5.財産的権利を防衛するために相手方の身体に暴行を加えて傷害を負わせた場合,その暴行行為については,正当防衛が成立する余地はない。

解答 1,4

KH0661R02-03 過剰防衛 A

学生A及びBは,過剰防衛に関する次の【事例】について,後記【会話】のとおり議論している。【会話】の中の①から④までの( )内から適切なものを選んだ場合,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。
【事 例】
Ⅰ.甲は,同じ居室にいた乙が机を押し倒してきたため,反撃として,同机を乙に向けて押し返した。これにより,乙は転倒し,左手中指の腱を断裂した。乙は,机の下敷きになっており,直ちに強い攻撃はできなかったが,体勢を立て直せば間もなく攻撃を再開できる状況であった。甲は,引き続き,防衛の意思で,必要な限度を超えて,乙の顔面を殴ったが,これにより乙に怪我は生じなかった。
Ⅱ.甲は,乙からいきなり殴られ,更に攻撃を加えられそうになったので,反撃として,乙の顔面を殴った。乙は転倒して頭部を地面に打ち付け,意識を失って動かなくなったが,腹が立っていた甲は,引き続き,専ら攻撃の意思で,倒れている乙の胸部を蹴り付け,肋骨骨折を負わせた。その後,乙は,頭部を地面に打ち付けた際に生じた脳内出血が原因で死亡した。
【会 話】
学生A. Ⅰの事例で,甲が机を押し返した行為は,急迫不正の侵害に対する反撃だけど,その行為と乙の顔面を殴った行為との関係は,どのように考えるべきだろうか。
学生B.その点は,時間的・場所的な関係や甲の主観面等に照らし,①(a.別個の行為・b.一連一体の行為)と捉えるべきだろう。
学生A.そうすると,甲には,どのような犯罪が成立するだろうか。
学生B.甲には,②(c.過剰防衛としての傷害罪が成立する・d.暴行罪のみが成立する)だろう。
学生A.Ⅱの事例でも,甲が乙の顔面を殴った行為は,急迫不正の侵害に対する反撃であることに変わりないよね。甲には,どのような犯罪が成立するだろうか。
学生B.乙が意識を失って動かなくなっているのに,専ら攻撃の意思で蹴り付けているのだから,顔面を殴る行為と胸部を蹴り付ける行為の間には断絶があると思う。甲には,③(e.過剰防衛としての傷害致死罪が成立する・f.傷害罪のみが成立する)という結論が妥当だろう。
学生A.Ⅱの事例で,B君のように,両暴行の間に断絶があると解すると,④(g.違法性が否定されるべき行為が遡って違法と評価されることになる・h.専ら攻撃の意思で胸部を蹴り付けた場合の方が,防衛の意思で胸部を蹴り付けた場合より軽い罪が成立する)という問題が生じるのではないか。
学生B.その点は,量刑上考慮すれば足りるという説明が可能なのではないか。
1.①a ③e  2.①b ④g  3.②d ③e  4.②c ④g  5.③f ④h

解答 5

KH0662R03-17K 正当防衛 A

正当防衛(刑法第36条第1項)に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものを2個選びなさい。
1.刑法第36条第1項における「急迫」というには,法益の侵害が現に存在していることを要する。
2.刑法第36条第1項における「やむを得ずにした行為」というには,反撃行為が権利を防衛する手段として必要最小限度のものであること,すなわち侵害に対する防衛手段として相当性
を有するものであることを要する。
3.急迫不正の侵害がないのにあると誤信して,防衛の意思で反撃行為を行った場合でも,正当防衛が成立し得る。
4.刑法第36条第1項にいう「権利」は,個人的法益に限られ,国家的・社会的法益は,これに含まれない。
5.刑法第36条第1項における「不正の侵害」というには,可罰的な行為であることを要しない。

解答 2,5

KH0670H24-16 正当防衛の共同の射程 A

次の【事例】及び【判旨】に関する後記アからエまでの各【記述】を検討し,正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。
【事 例】
甲は,友人乙及び丙女と深夜歩道上で雑談していたところ,通り掛かったVから因縁を付けられ,Vが丙女の髪をつかんで引きずるなどの暴行を加えたため,乙と共に,丙女への暴行をやめさせるためにVの顔面を殴るなどした(以下,甲と乙が共にVの顔面を殴るなどした行為を「第1行為」という。)。Vは,一旦丙女への暴行をやめたものの,その後も甲らに悪態をついたため,更に乙においてVの顔面を殴ったところ(以下,乙がVの顔面を殴った行為を「第2行為」という。),Vが転倒して重傷を負った。第2行為の際,甲はVに対し暴行を加えることも,乙の行為を制止することもなかった。
【判 旨】
相手方の侵害に対し,複数人が共同して防衛行為としての暴行に及び,相手からの侵害が終了した後に,なおも一部の者が暴行を続けた場合において,侵害現在時における暴行が正当防衛と認められる場合には,侵害終了後の暴行については,侵害現在時における防衛行為としての暴行の共同意思から離脱したかではなく,新たに共謀が成立したかどうかを検討すべきであり,共謀の成立が認められるときに初めて侵害現在時及び侵害終了後の一連の行為を全体として考察し,防衛行為の相当性を検討すべきであるところ,甲に関しては,第1行為については正当防衛が成立し,第2行為については乙との間に新たに共謀が成立したとは認められないのであるから,第1行為と第2行為とを一連一体のものとして総合評価する余地はない。
【記 述】
ア.この判旨は,甲らによる第1行為が正当防衛に当たることから,第1行為と第2行為とを一体のものとして考慮するためには,第2行為についての新たな共謀が必要だと考えている。
イ.この判旨は,甲らによる第1行為が正当防衛に当たることから,甲が乙による第2行為を防止する措置を講じなかったにもかかわらず,甲に共謀関係からの離脱を認めたものである。
ウ.共同正犯について「構成要件に該当する違法な行為を共謀することによって成立する」と考える見解に立つと,この事例における甲の罪責について,この判旨と結論において一致することはない。
エ.この判旨の立場からは,甲に第2行為についての新たな共謀が認められる場合には,甲に過剰防衛が成立する余地はない。

解答 ア1,イ2,ウ2,エ2

KH0691R02-17K 緊急避難 A

緊急避難(刑法第37条第1項)に関する次の【記述】の中の①から⑥までの( )内に,後記アからスまでの【語句群】から適切な語句を入れた場合,( )内に入るものの組合せとして正しいものは,後記1から5までのうちどれか。なお,①から⑥までの( )内にはそれぞれ異なる語句が入る。
【記 述】
緊急避難を(①)と解する見解によれば,その不処罰の根拠は,切迫した心理状態のために適法な行為を期待し得ないことに求められる。この見解によれば,緊急避難によって侵害を転嫁される第三者は緊急避難行為に対して(②)で対抗できることになる。この見解に対しては,刑法第37条第1項が(③)を守るための緊急避難を認めていることと整合しないという批判がある。他方,緊急避難を(④)と解する見解によれば,その不処罰の根拠は,法益が衝突する状況下で被侵害法益と同等以上の法益を保全する行為は社会全体の利益を(⑤)させるものではないことに求められる。また,この見解に立つと,緊急避難行為に対して(②)で対抗することを認めるのは困難である。さらに,緊急避難を基本的には(④)と解しつつ,保全法益と被侵害法益がいずれも生命である場合には,(①)であると解する見解もある。この見解は,自己又は第三者の生命に対する危難を避けるために無関係の第三者の生命を犠牲にする行為を(⑥)と評価するのは不当であるという考え方に基づくものである。
【語句群】
ア.違法性阻却事由 イ.責任阻却事由 ウ.個人的法益 エ.社会的法益 オ.他人の法益 カ.自己の法益 キ.増加 ク.減少 ケ.正当行為 コ.正当防衛 サ.緊急避難 シ.違法 ス.違法でない
1.①ア ③ウ ⑤ク
2.①イ ③エ ⑤キ
3.②ケ ④ア ⑥ス
4.②コ ⑤ク ⑥ス
5.③オ ④ア ⑥シ

解答 4

KH0710H28-09K 正当防衛と緊急避難 A

正当防衛及び緊急避難に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものはどれか。
1.国家的法益を防衛するための正当防衛が成立する余地はない。
2.相手方から急迫不正の侵害を受け,第三者の所有物を用いて相手方に反撃し,同所有物を損壊した場合において,その行為が器物損壊罪の構成要件に該当するとき,その行為につき緊急
避難が成立する余地はない。
3.相手方から急迫不正の侵害を受け,これに逆上して相手方に反撃を加えた場合,正当防衛が成立する余地はない。
4.相手方から急迫不正の侵害を受け,相手方に反撃を加えた場合,その侵害が相手方の過失に基づくものであれば,正当防衛が成立する余地はない。
5.正当防衛が成立する行為に対しては,正当防衛が成立する余地はない。

解答 5

KH0720H29-05 正当防衛と緊急避難 A

正当防衛及び緊急避難に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討し,正しいものを2個選びなさい。
1.正当防衛は,法益の侵害が現に存在している場合のほか,法益の侵害が間近に差し迫っている場合にも成立する余地があるが,緊急避難は,危難が間近に差し迫っている場合に成立する余地はない。
2.正当防衛が成立するためには,防衛行為が侵害に対する防衛手段として相当性を有するものであることを要するから,防衛行為によって生じた害が避けようとした害の程度を超えた場合に正当防衛が成立する余地はない。
3.正当防衛が成立する行為を避けるために相手方又は第三者の法益を侵害した場合,緊急避難が成立する余地があるが,正当防衛が成立する余地はない。
4.過剰避難について,その刑を減軽も免除もしないことはできるが,過剰防衛については,その刑を減軽又は免除しなければならない。
5.自然現象によって生じた法益侵害を避けるために第三者の法益を侵害した場合,緊急避難が成立する余地があるが,正当防衛が成立する余地はない。

解答 3,5

KH0730H24-09 緊急避難 A

緊急避難に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討し,正しいものを2個選びなさい。
1.緊急避難の要件である「現在の危難」は,人の行為によるものに限られないから,自然災害もこれに含まれる。
2.緊急避難が成立するのは,避難行為により避けようとした害が避難行為から生じた害の程度を超える場合に限られ,前者と後者が同等の場合には成立しない。
3.緊急避難の要件である「現在の危難」が認められる場合であっても,第三者の正当な利益を侵害することは認められないから,現在の危難を避けるために第三者の法益を侵害したときには,緊急避難は成立しない。
4.緊急避難の要件である「現在の危難」は,正当防衛の要件の「急迫不正の侵害」とは異なり,法益に対する侵害が現実に存在することを意味し,侵害が差し迫っているだけでは足りない。
5.避難行為から生じた害が避難行為により避けようとした害の程度を超えるが,危難を回避する方法がその避難行為以外に存在しなかった場合には,過剰避難が成立し得る。

解答 1,5

KH0740H27-03Y 緊急避難 A

緊急避難に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合,誤っているものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。
ア.国家的法益に対する現在の危難を避けるためにした行為については,緊急避難が成立することはない。
イ.現在の危難の発生原因は人の行為に限られず,自然災害や動物による危害も含まれる。
ウ.「やむを得ずにした行為」とは,その避難行為をする以外には現在の危難を避けるための他の方法がなく,その避難行為に出たことが条理上肯定できる場合をいう。
エ.現在の危難を避けるためにした行為によって生じた害が,避けようとした害の程度を超えた場合,当該行為をした者の刑を免除することはできない。
オ.緊急避難が違法性阻却事由であると考えた場合,緊急避難と認められる行為に対して正当防衛が成立することはない。
1.ア ウ  2.ア エ  3.イ エ  4.ウ オ  5.エ オ

解答 2

KH0741R03-19K 緊急避難 B

緊急避難に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。
ア.豪雨により稲苗が水に沈む危険が生じていたことから,排水のため他人の所有する下流の板堰を損壊した場合,「現在の危難」があるとは認められないので,緊急避難は成立しない。
イ.警察官の適法な逮捕行為に対し,逮捕を免れるためには他に方法がなかったので,第三者を突き飛ばして逃走し,よって同人に傷害を負わせた場合,緊急避難が成立し得る。
ウ.頭に拳銃を突き付けられて,覚醒剤の自己使用を強要され,これを拒むことができず,自己に覚醒剤を注射して使用した場合,犯罪行為の強要の手段は「現在の危難」に当たらないので,
緊急避難は成立しない。
エ.吊橋が腐朽し,通行の際の揺れにより通行者の生命,身体等に危険が生じていたため,ダイナマイトを使用して同吊橋を爆破したが,通行制限の強化等適当な手段,方法を講ずる余地が
あった場合,同爆破行為は,「やむを得ずにした行為」とは認められないので,緊急避難は成立しない。
オ.甲が飼い犬A(時価30万円相当)を連れて山道を散歩中,乙が設置していた害獣駆除用の罠(時価3万円相当)にAがかかり,その生命に危険が生じ,Aを保護するためには他に方法
がなかったので,その罠を損壊した場合,緊急避難が成立する(甲及び乙いずれにも過失がなかったものとする。)。
1.ア イ  2.ア エ  3.イ ウ  4.ウ オ  5.エ オ

解答 5

KH0750H26-15K 緊急避難・過剰非難 A

次の【事例】及び各【見解】に関する後記1から5までの各【記述】のうち,誤っているものはどれか。
【事 例】
甲は,乙から裁判の証人として請求されてX裁判所から呼出しを受けたところ,証人尋問期日の3日前にその不出頭を懸念した乙から「俺が裁判所まで連れて行くから,証人尋問の日までここにいろ。」と言われ,見張りを付けられてマンションの一室に監禁された。甲は,自己の生命身体に対する危険は感じなかったものの,証人として出廷したくないと思い,同室に放火して騒ぎを起こし,見張りの者が消火に当たっている隙に逃亡しようと考え,同室の壁等に灯油をまいて放火し,同室の一部及びその上階の第三者が住む部屋の一部を焼損させた。
【見 解】
A説:当該避難行為が「やむを得ずにした行為」でなければ緊急避難は認められないが,当該行為が危難を避けるための一つの方法と認められれば,法益権衡の要件を欠いても過剰避難が成立する。
B説:当該避難行為が「やむを得ずにした行為」でなければ緊急避難は認められないが,「やむを得ずにした行為」でなくとも法益権衡の要件を充たしていれば過剰避難が成立し,また,「やむを得ずにした行為」であって,法益権衡の要件を欠く場合にも過剰避難が成立する。
C説:当該避難行為が「やむを得ずにした行為」でなければ緊急避難,過剰避難とも認められず,過剰避難は,「やむを得ずにした行為」であって,かつ,法益権衡の要件を欠く場合に成立する。
【記 述】
1.【事例】に,更に「事件当時,部屋の窓から逃走するなどして脱出することは可能であった」との事情がある場合,A説からは甲に過剰避難が成立することになる。
2.【事例】に,更に「事件当時,甲が部屋から脱出する手段はほかになかった」との事情がある場合,B説からは甲に過剰避難が成立することになる。
3.【事例】に,更に「事件当時,部屋の窓から逃走するなどして脱出することは可能であった」との事情がある場合,C説からは甲に過剰避難が成立することになる。
4.【事例】に,更に「事件当時,部屋の窓から逃走するなどして脱出することは可能であった」との事情がある場合,B説からは甲には緊急避難の成立も過剰避難の成立も認められない。
5.【事例】に,更に「事件当時,甲が部屋から脱出する手段はほかになかった」との事情がある場合,C説からは甲に過剰避難が成立することになる。

解答 3

KHKH0760H28-05Y 第三者に対する防衛行為 A

学生A,B及びCは,次の【事例】における甲の罪責について,後記【会話】のとおり検討している。【会話】中の①から⑤までの( )内から適切な語句を選んだ場合,正しいものの組合せは,
後記1から5までのうちどれか。
【事 例】
甲は,乙が甲に向けて拳銃を発射してきたので,防衛のため,殺意をもって,携帯していた拳銃を乙に向けて発射した。その弾丸は,乙に当たり乙を死亡させるとともに,乙を貫通して,たまたま乙のそばを通り掛かった丙にも当たって丙を死亡させた。
【会 話】
学生A.私は,甲の行為は,乙に対する殺人既遂罪と丙に対する殺人既遂罪の構成要件に該当すると考えます。そして,乙に対する行為については,正当防衛が成立すると考えます。これを前提として丙に対する行為について検討しましょう。私は,①(a.正当防衛・b.緊急避難)が成立すると考えます。
学生B.私は,Aさんの見解に反対です。この事例のように,防衛行為によって攻撃者以外の第三者の法益を侵害した場合,第三者との関係は,「正対不正」の関係とはいえないと考えるからです。私は,丙に対する行為については,②(c.正当防衛・d.緊急避難)が成立すると考えます。
学生A.私は,②(c.正当防衛・d.緊急避難)が成立するためには,当該第三者の法益を侵害したことによって初めて現在の危難を避けることができたという関係が必要だと考えるので,Bさんの見解には反対です。Cさんは,どう考えますか。
学生C.甲は,主観的には③(e.正当防衛・f.緊急避難)と認識して拳銃を発射し,丙に死亡の結果が発生しているので,丙に対する行為については,④(g.誤想防衛・h.誤想避難)であると考えます。そして,④(g.誤想防衛・h.誤想避難)についての判例の立場によれば,⑤(i.違法性・j.故意)が阻却されると考えます。
1.①a ②d ③e ④g ⑤j
2.①b ②c ③f ④h ⑤i
3.①a ②d ③f ④h ⑤j
4.①b ②c ③e ④h ⑤j
5.①a ②d ③e ④g ⑤i

解答 1