第5編 社会法益 第1章 公衆平穏に対する罪

KH2490H24-17K 放火罪 A

放火罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討し,正しいものを2個選びなさい。
1.甲は,日頃恨みを持っていたVの所有する自動車が止めてある駐車場に出向き,同車にガソリンをかけて火をつけ,同車を焼損させたところ,同駐車場に駐車されていた第三者が所有する自動車10台に延焼する危険が生じたものの,駐車場が住宅地から離れていたため,住宅その他の建物に延焼する危険は生じなかった。甲には建造物等以外放火既遂罪は成立しない。
2.甲は,周囲に他の住宅のない場所に空家を所有する乙から,同家屋に付された火災保険金をだまし取る計画を持ちかけられ,これに応じることとし,同家屋に立て掛けてあった薪に灯油をかけて火をつけたところ,火は同家屋の取り外し可能な雨戸に燃え移ったが,たまたま降り出した激しい雨によって鎮火した。甲には他人所有非現住建造物等放火未遂罪が成立するにとどまる。
3.甲は,深夜,本殿・祭具庫・社務所・守衛詰所が木造の回廊で接続され,一部に火を放てば他の部分に延焼する可能性がある構造の神社の祭具庫壁付近にガソリンをまいてこれに火をつけた。その結果,無人の祭具庫は全焼したものの,Vらが現在する社務所・守衛詰所には,火は燃え移らなかった。甲には現住建造物等放火既遂罪が成立する。
4.甲は,日頃恨みを持っていたVが居住するマンション内部に設置されたエレベーターのかご内に,ガソリンを染み込ませて点火した新聞紙を投げ入れて放火し,エレベーターのかごの内部を焼損させた。甲には現住建造物等放火未遂罪が成立するにとどまる。
5.甲は,妻所有の一戸建て木造家屋に妻と二人で暮らしていたところ,ある日,同家屋内において,口論の末に激高して妻を殺害し,その直後に犯跡を隠すため,同家屋に火をつけて全焼させたが,周囲の住宅には燃え移らなかった。甲には現住建造物等放火既遂罪が成立する。

解答 2,3

KH2500H25-14 放火の罪 A

放火の罪に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討し,正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。 
ア.「放火」とは,目的物の焼損を惹起させる行為をいい,媒介物を介して目的物に点火する場合には,媒介物に点火することも含まれる。
イ.「焼損」とは,火力により目的物の重要部分が焼失し,その本来の効用が失われた状態をいう。
ウ.「建造物」とは,家屋その他これに類する工作物であって,土地に定着し,人の起居出入に適する構造を有するものをいう。
エ.「建造物」には,家屋の和室に敷かれている畳も含まれる。
オ.「現に人が住居に使用し」の「人」には,犯人が含まれる。

解答 ア1,イ2,ウ1,エ2,オ2

KH2510H28-02Y 放火の罪等 A

放火の罪等に関する次の1から5までの各記述のうち,正しいものを2個選びなさい。 
1.建造物等以外放火罪は,抽象的危険犯である。
2.建造物等以外放火罪には,未遂処罰規定がない。
3.人がいない他人所有の空き家に放火し,予期せずその火が現に人が居住する隣家に燃え移ってこれを焼損した場合は,延焼罪が成立する。
4.客を乗せて航行中の他人所有のフェリーに放火した場合は,建造物等以外放火罪が成立する。
5.失火により,自己所有の自動二輪車を焼損し,それによって公共の危険を生じさせた場合は,失火罪が成立する。

解答 2,5

KH2520H26-18K 放火等の罪 B

放火等の罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものはどれか。 
1.Aは,Bが居住する家屋に隣接する無人の倉庫に灯油をまいて放火したところ,B居住の家屋にまで延焼したが,Aは,B居住の家屋に延焼することまで予想していなかった。その倉庫がB所有のものであった場合,Aには延焼罪(刑法第111条第1項)が成立する。
2.Aは,無人の倉庫に放火しようとして,その倉庫に灯油をまいてライターで火をつけたが炎は燃え上がらず,燃焼には至らなかった。その倉庫がA所有のものであった場合,Aには非現住建造物等放火罪(刑法第109条第2項)の未遂罪が成立する。
3.Aは,無人の倉庫に放火するためにこれに使用するガソリンとライターを持ってその倉庫に向かっていたところ,Aに不審を抱いた警察官から職務質問を受け,倉庫に放火するには至らなかった。その倉庫がA所有のものであった場合,Aに放火予備罪(刑法第113条)は成立しない。
4.Aは,A所有の倉庫に放火しようと考え,その倉庫の近くの消火栓から放水できないように同消火栓に工作をしたが,放火するには至らなかった。Aには消火妨害罪(刑法第114条)が成立する。
5.Aは,無人の倉庫に灯油をまいて放火し,これを焼損したが,公共の危険は生じなかった。その倉庫が火災保険の付されたA所有のものであった場合,Aに非現住建造物等放火罪(刑法第109条第1項)は成立しない。

解答 3

KH2530H29-08Y 放火罪 A

放火の罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものはどれか。 
1.甲は,住宅街の駐車場に駐車中の乙所有の自動車を燃やそうと考え,自己の自動車に灯油を積みライターを持って同自動車を運転して同駐車場に向かったところ,その途中,交通事故を起こし,乙所有の自動車に放火することができなかった。この場合,甲には,建造物等以外放火罪の予備罪が成立する。
2.甲は,乙が居住する乙所有の家屋を燃やそうと考え,同家屋に放火し全焼させたところ,同家屋内で就寝中の乙が焼死した。甲が乙を殺そうと考えて同家屋に放火した場合でも,甲には,法定刑に死刑を含む現住建造物等放火罪のみが成立する。
3.甲は,山奥で乙を殺害した後,乙の失踪を装うため,乙が一人で居住していた丙所有の家屋を燃やそうと考え,同家屋に放火し全焼させた。同家屋に人がいなかった場合でも,甲には,現住建造物等放火罪が成立する。
4.甲は,不要となった甲所有の自動車を燃やそうと考え,同自動車に放火し全焼させ,公共の危険を生じさせた。甲に公共の危険が生じることについての認識がなかった場合でも,甲には,建造物等以外放火罪が成立する。
5.甲は,乙が居住する乙所有の家屋を燃やそうと考え,同家屋の壁際に駐車されていた乙所有の自動車に放火して焼損し,同家屋への延焼の危険を生じさせたが,その火は通行人により消し止められ,同家屋に燃え移らなかった。この場合,甲には,建造物等以外放火罪のみが成立する。

解答 4

KH2540H30-16 放火罪 A

放火の罪に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討し,正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。 
ア.甲は,自己が所有する家屋に一人で居住していたが,同家屋に掛けられた火災保険の保険金を詐取しようと考え,同家屋に放火して全焼させ,公共の危険を生じさせた。甲には自己所有非現住建造物等放火罪(刑法第109条第2項)が成立する。
イ.甲は,競売手続を妨害する目的で,人が住んでいるように見せ掛けるため,空き屋であった家屋に家財道具を持ち込むなどして住居として使用可能な状態にした上,自己が経営する会社の従業員5名を約1か月半前から10数回にわたり交替で泊まり込ませていたところ,同従業員らが不在にしている隙に,同家屋に放火して全焼させた。甲には現住建造物等放火罪(刑法第108条)が成立する。
ウ.甲は,乙が住居に使用する家屋及びこれに隣接する丙が住居に使用する家屋を燃やそうと考え,乙の家屋に放火してその火を丙の家屋に燃え移らせ,乙及び丙の各家屋を共に全焼させた。甲には1個の現住建造物等放火罪(刑法第108条)が成立する。
エ.甲は,住宅街の中にある駐車場内に駐車されていた乙所有の自動車にガソリンをまいて放火したところ,同自動車が勢いよく炎上し,その付近に駐車されていた所有者の異なる自動車3台に火が燃え移りかねない状態になったが,付近の建造物に燃え移る危険は生じなかった。甲には他人所有建造物等以外放火罪(刑法第110条第1項)は成立しない。
オ.甲は,乙が住居に使用する家屋を燃やそうと考え,同家屋の6畳和室に敷かれた布団に灯油をまいて放火し,火は布団からその下に敷かれた畳に燃え移って炎上したが,他に燃え移る前に乙によって消し止められた。甲には現住建造物等放火罪(刑法第108条)の既遂罪が成立する。

解答 ア2,イ1,ウ1,エ2,オ2

KH2550R01-08K 放火罪 A

放火罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,誤っているものを2個選びなさい。 
1.「建造物」とは,家屋その他これに類する工作物であって,土地に定着し,人の起居出入りに適する構造を有するものをいい,毀損しなければ家屋から取り外すことができない状態にある雨戸は,「建造物」の一部に当たる。
2.「放火」とは,目的物の焼損を惹起させる行為をいい,目的物への直接的な点火行為に限られず,媒介物への点火行為であっても,その燃焼作用が継続して目的物に延焼し得るものである場合,「放火」に当たる。
3.「焼損」とは,火力により目的物の重要部分が焼失し,その本来の効用が失われた状態をいい,不燃性の建造物のコンクリート壁が媒介物の火力によって崩落した場合,「焼損」に当たる。
4.建造物等以外放火罪にいう「公共の危険」は,現住建造物等放火罪や他人所有非現住建造物等放火罪の客体である建造物等に対する延焼の危険に限られず,不特定又は多数の人の生命,身体又は前記建造物等以外の財産に対する危険も含まれる。
5.現住建造物等放火罪にいう「現に人が住居に使用し」の「人」には犯人が含まれるが,「現に人がいる」の「人」には犯人が含まれない。

解答 3,5

KH2551R02-14K 放火罪 A

放火罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものを2個選びなさい。 
1.甲が自己の所有する空き家に放火したが,公共の危険が生じなかった場合,甲には,非現住建造物等放火未遂罪が成立する。
2.甲が乙に頼まれて,乙所有の大型家具を,丙が居住する家屋に近接する甲所有の畑地で燃やし始めたところ,周辺に火の粉が飛び散り,予期に反して,同家屋の屋根のひさしに飛び火して,同ひさしを焼損させたところで火が消し止められた場合,甲には,延焼罪が成立する。
3.甲が住宅内にいる乙を殺害する目的で放火し,住宅が焼失した上,乙が死亡した場合,甲には,殺人罪は成立せず,現住建造物等放火罪のみが成立する。
4.甲が,一部の部屋のみが現に住居に使用されている木造の集合住宅の空き部屋に放火し,同室のみを焼損させた場合,甲には,現住建造物等放火罪が成立する。
5.甲が憂さ晴らしの目的で,甲の世帯を含めて計30世帯が居住するマンション内部に設置されたエレベーターのかご内に,灯油を染み込ませて点火した新聞紙を投げ入れて放火したが,エレベーターのかごの側壁を焼損したにとどまり,住居部分には延焼しなかった場合,甲には,現住建造物等放火未遂罪が成立する。

解答 2,4

KH2552R03-16 放火の罪 A

放火の罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものを2個選びなさい。 
1.甲は,Aが所有する自動二輪車に放火するため,これに使用するガソリンとライターを所持して同自動二輪車に近づいたが,甲に不審を抱いた警察官から職務質問を受け,放火するに至らなかった。この場合,甲には,放火予備罪は成立しない。
2.甲は,自己が所有する無人の木造倉庫に放火してこれを焼損し,よって公共の危険を生じさせ,その結果,Aが居住する木造家屋に延焼させたが,その延焼についての認識はなかった。この場合,甲には,延焼罪は成立しない。
3.甲は,自己が所有する自動二輪車に放火してこれを焼損し,よって公共の危険を生じさせたが,その公共の危険が生じることについての認識はなかった。この場合,甲には,建造物等以外放火罪は成立しない。
4.甲は,隣人Aが居住する木造家屋を焼損しようと考え,同家屋から1メートル離れた位置にある自己が所有する無人の木造倉庫に放火してこれを焼損したが,同家屋に延焼する危険を生じさせるにとどまった。この場合,甲には,現住建造物等放火未遂罪は成立しない。
5.甲は,Aが1人で居住しており,他に誰もいなかった木造家屋内でAを殺害し,その直後,同家屋に放火してこれを焼損した。この場合,甲には,現住建造物等放火罪は成立しない。

解答 1,5

第5編 社会法益 第3章 公衆信用に対する罪

KH2630H25-06K 文書偽造の罪 B

文書偽造の罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものはどれか。 
1.甲は,A公立高校を中途退学した乙から「父親に見せて安心させたい。それ以外には使わないからA公立高校の卒業証書を作ってくれ。」と頼まれ,乙の父親に呈示させる目的で,A公立高校校長丙名義の卒業証書を丙に無断で作成した。甲には公文書偽造罪は成立しない。
2.甲は,自己の所有する土地の登記記録を改ざんしようと考え,法務局の担当登記官である乙にその情を打ち明けて記録の改ざんを依頼し,乙に登記簿の磁気ディスクに内容虚偽の記録をしてもらった。甲には電磁的公正証書原本不実記録罪,同供用罪の共同正犯が成立する。
3.甲は,行使の目的で,高齢のため視力が衰え文字の判読が十分にできない乙に対し,公害反対の署名であると偽り,その旨誤信した乙に,甲を貸主,乙を借主とする100万円の借用証書の借主欄に署名押印させた。甲には私文書偽造罪が成立する。
4.甲と乙は,警察署に提出する目的で,県立病院の医師丙に内容虚偽の診断書を作成させる旨共謀し,甲が丙にこれを依頼したが,丙に断られたため,甲は,乙に相談することなく自ら県立病院医師丙名義で内容虚偽の診断書を作成した。乙には虚偽診断書作成罪の共同正犯が成立する。
5.甲は,行使の目的で,正規の国際運転免許証を発給する権限のない民間団体乙名義で,外観が正規の国際運転免許証に酷似する文書を作成した。甲は,乙からその文書の作成権限を与えられていたが,乙に正規の国際運転免許証を発給する権限がないことは知っていた。甲には私文書偽造罪は成立しない。

解答 3

KH2640H28-04K 文書偽造罪 A

文書偽造の罪に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合,Xに( )内の罪が成立しないものの組合せとして正しいものは,後記1から5までのうちどれか。 
ア.医師Xは,Yに依頼され,Yが保険会社に提出するために虚偽の病名を記載した診断書を作成した。(虚偽診断書作成罪)
イ.Xは,自動車運転免許の効力停止中に自動車を運転し,速度違反の取締りを受けた際,警察官に対し,あらかじめYから名義使用の承諾を受けていたことから,Yの氏名を名乗り,交通事件原票の供述者欄にY名義で署名押印した。(有印私文書偽造罪)
ウ.Yの代理人でないXは,Yに無断で,行使の目的をもって,金銭消費貸借契約書用紙に「Y代理人X」と記載し,その横に「X」と刻した印鑑を押すなどして,Yを債務者とする金銭消費貸借契約書を作成した。(有印私文書偽造罪)
エ.Xは,身分証明書として使おうと考え,A県公安委員会が発行したYの自動車運転免許証の写真をXの写真に貼り替えた。(有印公文書偽造罪)
オ.Xは,Yの所有する不動産を勝手に売却しようと考え,Yに無断で,行使の目的をもって,不動産の売買契約書用紙に売主として「Y」と記載するなどして,同不動産の売買契約書を作成したが,「Y」と刻した印鑑は押さなかった。(無印私文書偽造罪) 
1.ア ウ  2.ア オ  3.イ ウ  4.イ エ  5.エ オ

解答 2

KH2650R01-06Y 文書偽造罪 B

文書偽造罪に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合,誤っているものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。 
ア.公文書に限らず,私文書であっても,その写しは,文書偽造罪の客体となり得る。
イ.行使の目的で,交通事件原票中の供述書の署名欄に,一定の範囲で定着した通称名を記載した場合,私文書偽造罪は成立しない。
ウ.会社の代表取締役が,個人として同社から貸付けを受けていた債務についての抵当権抹消登記手続をするため,その権限を濫用し,代表取締役名義の債権放棄書を作成した場合,私文書偽造罪は成立しない。
エ.公文書の内容を改ざんし,これを原稿としてファクシミリで相手方に送信した場合,送信に供した当該原稿が公文書偽造罪の客体であって,受信書面は同罪の客体とならない。
オ.行使の目的で,銀行預金通帳の預金受入年月日を改ざんする行為は,私文書の変造であって,偽造ではない。 
1.ア ウ  2.イ ウ  3.イ エ  4.ウ オ  5.エ オ

解答 3

KH2651R02-06K 文書偽造罪 B

次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,誤っているものはどれか。
1.甲は,乙から,大学の入学試験を代わりに受けてほしいと頼まれてこれを引き受け,乙に成り済まして入学試験を受け,乙名義で答案を作成して提出した。この場合,甲に有印私文書偽造罪が成立する。
2.甲は,架空請求により金銭をだまし取るために使おうと考え,実在しない「法務局民事訴訟管理センター」名義で,契約不履行による民事訴訟が提起されているので連絡をされたい旨記載されたはがきを印刷し,一般人をして実在する公務所が権限内で作成した公文書であると誤信させるに足りる程度の形式・外観を備えた文書を作成した。この場合,甲に有印公文書偽造罪が成立する。
3. 甲は,X市立病院の事務長を務める公務員であるが,同病院のために発注書を作成する権限を授与されていないのに,行使の目的で,同病院が業者Aに医療器具を発注していないにもかかわらず,それを発注した旨を記載した内容虚偽の「X市立病院事務長甲」名義の発注書を作成した。この場合,甲に虚偽有印公文書作成罪が成立する。
4.甲は,支払督促制度を悪用して乙の財産を不正に差し押さえるなどして金銭を得ようと考え,乙に対する内容虚偽の支払督促を簡易裁判所に申し立てた上,乙宛ての支払督促正本等を配達しようとした郵便配達員に対し,乙本人を装い,郵便送達報告書の「受領者の押印又は署名」欄に乙の氏名を記載して提出し,支払督促正本等を受領した。この場合,甲に有印私文書偽造罪が成立する。
5.甲は,消費者金融業者に提出する目的で,公文書である乙の国民健康保険被保険者証の氏名欄に自己の氏名が印刷された紙を貼り付けた上で,複写機を使用してこれをコピーし,一般人をして甲の国民健康保険被保険者証の真正なコピーであると誤信させるに足りる程度の形式・外観を備えたものを作成した。この場合,甲に有印公文書偽造罪が成立する。

解答 3

KH2652R03-06K 文書偽造の罪 B

文書偽造の罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものを2個選びなさい。 
1.偽造公文書行使罪の客体は,行使の目的で作成されたものでなければならない。
2.公務員である医師が,自己の勤務する市立病院の患者が裁判所に提出するための診断書に虚偽の病名を記載した場合,虚偽公文書作成罪が成立する。
3.行使の目的で,公務員の名義を冒用して公文書を作成したが,実際には当該公務員に当該文書の作成権限がなかった場合,当該文書が当該公務員の職務権限内で作成されたものと一般人が信じるに足る形式・外観を備えていれば,公文書偽造罪が成立する。
4.警察官から提示を求められたときに備え,偽造された自動車運転免許証を携帯して自動車を運転した場合,偽造公文書行使罪が成立する。
5.上司である公文書の作成権限のある公務員を補佐して公文書の起案を担当する公務員が,その地位を利用し,行使の目的で,その職務上起案を担当する公文書に内容虚偽の記載をした上,情を知らない上司に,当該文書の内容が真実であると誤信させ,これに署名押印させた場合,虚偽公文書作成罪は成立しない。

解答 2,3

KH2660H26-06K 各種偽造の罪 B

各種偽造の罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものはどれか。 
1.偽造通貨行使罪及び偽造有価証券行使罪の「行使」とは,各客体を真正なものとして使用することをいい,例えば,自己に資力があることを証明するために偽造紙幣又は偽造株券を相手に示すことも「行使」に該当する。
2.偽造通貨,偽造有価証券又は偽造公文書を行使の目的で情を知る者に占有移転した場合には,各客体の交付罪が成立する。
3.偽造通貨行使罪,偽造有価証券行使罪及び偽造公文書行使罪の各客体は,いずれも行使の目的で作成されたものでなければならない。
4.偽造通貨又は偽造有価証券を行使して相手から金品をだまし取った場合,詐欺罪は偽造通貨行使罪には吸収されるが,詐欺罪と偽造有価証券行使罪とは牽連犯となる。
5.偽造通貨又は偽造有価証券を収得した後に,それが偽造されたものであることを知るに至った者が,これを行使した場合には,各客体の収得後知情行使罪が成立する。

解答 4

KH2670H27-04 偽造公文書の行使 A

偽造公文書の行使に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討し,正しいものを2個選びなさい。
1.行使の目的なしに作成された偽造公文書は,偽造公文書行使罪の客体とならない。
2.偽造公文書の内容,形式を口頭で他人に告知するだけでは,偽造公文書行使罪は成立しない。
3.偽造公文書を相手方に示して錯誤に陥れ,相手方から現金の交付を受けた場合,偽造公文書行使罪は詐欺罪に吸収され,詐欺罪のみが成立する。
4.交際相手と結婚するために自己に生活能力があることを示そうとして,偽造した国家試験合格証書を当該相手に見せた場合,偽造公文書行使罪が成立する。
5.自動車を運転する際,警察官から運転免許証の提示を求められれば提示するつもりで偽造した運転免許証を携帯した場合,偽造公文書行使罪が成立する。

解答 2,4

KH2680H29-04 各種偽造 A

各種偽造の罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものを2個選びなさい。 
1.甲は,他人の自動車運転免許証に甲の写真を貼り付けた偽造自動車運転免許証を入手し,これを携帯して自動車を運転中に検問で停止を求められ,情を知らない警察官に同免許証を真正に成立したものとして提示した。提示した時には同免許証に表示されている有効期間が経過していたとしても,甲には偽造公文書行使罪が成立する。
2.公務員でない甲は,情を知らない公務員に対し虚偽の申立てをして登記簿に不実の記載をさせ,その登記簿謄本の交付を受けた。甲には虚偽公文書作成罪の間接正犯が成立する。
3.甲は,情を知らずに釣銭として偽造通貨を受け取ったところ,その後,それが偽造通貨であることに気付いたが,行使の目的でそのまま所持した。甲には偽造通貨収得罪が成立する。
4.甲は,行使の目的で,他人が振り出した額面10万円の小切手の金額欄に「0」を加え,額面100万円の小切手に改ざんした。甲には有価証券変造罪が成立する。
5.弁護士資格のない甲は,X弁護士会に実在する自己と同姓同名の弁護士を装い,これを信じた乙から依頼を受けて弁護士としての業務を行った後,乙から報酬を得るために,「X弁護士会所属 弁護士甲」名義の弁護士報酬金請求書を作成した。甲には私文書偽造罪が成立しない。

解答 1,4

KH2690H30-04K 偽造罪 A

次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものはどれか。
1.甲は,Aから現金を借り入れるに当たり,借入金をAに自ら返済する意思も能力もないのに,乙に対し,「自分がAに返済するので,保証人として名前を貸してほしい。」とうそを言い,その旨乙を誤信させ,乙に,Aを貸主,甲を借主とする消費貸借契約書の保証人欄に署名押印させた。乙は錯誤に基づいて署名押印しているから,甲には有印私文書偽造罪の間接正犯が成立する。
2.甲は,取引先乙に見せて自己に信用があることを誇示するだけの目的で,偽造された約束手形を真正なものとして乙に提示した。偽造有価証券行使罪の「行使」といえるためには,偽造有価証券を真正なものとして流通に置く必要があるから,甲には同罪は成立しない。
3.甲は,偽名を用いて会社に就職しようと考え,同会社に提出する目的で,履歴書用紙に,架空人Aの氏名を記載し,その氏名の横にAと刻した印鑑を押印するとともに,自己の顔写真を貼り付けて履歴書を作成した。同履歴書の作成名義人と作成者との人格の同一性にそごを生じさせるものとは認められないから,甲には有印私文書偽造罪は成立しない。
4.甲は,信販会社の財産上の事務処理を誤らせる目的で,権限がないのに,同会社の会員名義のクレジットカードの電磁的記録を白地のカード板の磁気部分に印磁して,クレジットカードを構成する電磁的記録を作成したが,その外観は一般人が真正な支払用カードと誤認する程度のものではなかった。支払用カード電磁的記録不正作出罪が成立するためには,一般人が真正な支払用カードと誤認する程度の外観を備える必要はないから,甲には同罪が成立する。
5.県立高校を中途退学した甲は,父親乙に見せて安心させるだけの目的で,偽造された同高校校長A名義の甲の卒業証書を真正なものとして乙に提示した。甲は,同卒業証書を乙に見せただけであり,公文書に対する公共の信用を害するおそれがないから,甲には偽造有印公文書行使罪は成立しない。

解答 4

第5編 社会法益 第4章 風俗に対する罪

KH2720H28-08K わいせつの罪 A

わいせつの罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,誤っているものはどれか。 
1.甲は,人通りの多い駅構内において,自己の性器を露出させたが,実際には,それに気付いた人はいなかった。この場合,甲には公然わいせつ罪は成立しない。
2.甲は,日本国外で販売する目的で,日本国内において,わいせつな映像が録画されたDVDを所持した。この場合,甲にはわいせつ物有償頒布目的所持罪は成立しない。
3.甲は,友人乙からの土産に対するお礼として,わいせつな映像が録画されたDVD1枚を乙にプレゼントした。この場合,甲にはわいせつ物頒布罪は成立しない。
4.甲は,不特定多数の通行人を勧誘して5名の客を集めた上,自宅であるマンションの一室において,外部との出入りを完全に遮断した状態で,わいせつな映像が録画されたDVDを再生し,その5名の客に有料で見せた。この場合,甲にはわいせつ物公然陳列罪が成立する。
5.甲は,海水浴場において,不特定多数の者の面前で,乙女の衣服を全てはぎ取るなどして強いてわいせつな行為をした。この場合,甲には,強制わいせつ罪が成立するのみならず,公然わいせつ罪も成立する。

解答 1

KH2730H29-06K わいせつ物頒布罪 A

わいせつ物頒布等の罪に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討し,甲に( )内の罪が成立しないものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。 
ア.インターネットを介した書籍販売業を営む甲は,日本語で書かれたわいせつな文書である小説を,その購入を申し込んできた日本国内在住の多数の外国人に販売したところ,いずれの外国人も日本語の読解能力に乏しく,同小説の内容を理解できなかった。(わいせつ物頒布罪)
イ.甲は,インターネットを介して多数の希望者を募った上,その希望者らに無料で交付する目的で,わいせつな映像を記録したDVDを所持した。(わいせつ物有償頒布目的所持罪)
ウ.甲は,わいせつな映像を記録したDVDの販売業者に対してそのDVDの購入を申し込み,これを購入した。(わいせつ物頒布罪の教唆犯)
エ.DVDのレンタル業を営む甲は,わいせつな映像を記録したDVDを,多数の顧客へ有償で貸し出した。(わいせつ物頒布罪)
オ.甲がインターネットを介したわいせつな映像の販売業を営み始めたところ,その購入を申し込んできた顧客は1名だけであったが,甲は,その者に対して,電子メールに同映像のデータを添付して送信した。(わいせつ物頒布罪) 
1.ア エ  2.ア オ  3.イ ウ  4.イ エ  5.ウ オ

解答 3

第6編 国家法益 第2章 国家作用に関する罪

KH2760H25-16K 公務執行妨害罪の成否 A

次のアからオまでの各事例における甲の罪責について判例の立場に従って検討し,甲に公務執行妨害罪が成立する場合には1を,成立しない場合には2を選びなさい。 
ア.甲は,県議会の議事が紛糾し,議長乙が休憩を宣言して壇上から降りようとした際,乙の顔面をげんこつで殴った。
イ.甲は,日本国内にある外国の大使館の職員乙がその大使館の業務に従事していた際,乙の腹部を足で蹴った。
ウ.甲は,警察官乙から捜索差押許可状に基づき自宅の捜索を受け,覚せい剤入りの注射器を差し押さえられた際,乙の眼前で同注射器を足で踏み付けて壊した。
エ.甲は,無許可のデモ行進に参加していた際,これを解散させようとした警察官乙に向かって石を1回投げ,その石は乙の頭部付近をかすめたが,乙には命中しなかった。
オ.甲は,執行官から確定判決に基づき居室明渡しの強制執行を受けていた際,執行官の補助者であった民間人乙の頭部を棒で殴った。

解答 ア1,イ2,ウ1,エ1、オ1

KH2770H28-10 公務執行妨害罪 A

公務執行妨害罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものはどれか。 
1.窃盗犯人甲は,その窃盗行為を目撃した警ら中の制服警察官乙からその窃盗の機会に現行犯逮捕されそうになり,逮捕を免れるため,乙に対して,その反抗を抑圧するに足りる程度の暴行を加えて抵抗し,そのまま逃走した。甲には事後強盗罪が成立し,これに公務執行妨害罪は吸収されるから,同罪は成立しない。
2.甲は,税務署の職員乙が甲宅において税務調査をしていたところ,乙の近くでその調査を補助していた民間人である丙に対し,「殺すぞ。」などと危害を加える旨申し向け,これにより乙の職務の執行を一時中断させた。甲は乙を直接脅迫したものではないから,甲には公務執行妨害罪は成立しない。
3.甲は,制服警察官乙から職務質問を受けている丙の右手をつかんで引っ張り,その場から一緒に走って逃走したところ,これを追い掛けた乙が,走りながら,丙の肩をつかもうとして手を伸ばしたが,その肩をつかめずにバランスを崩して路上に転倒した。甲の丙に対する行為は乙に対する暴行とはいえないから,甲には公務執行妨害罪は成立しない。
4.甲は,警ら中の制服警察官乙が職務質問をしようとしてきたことから,これを免れるため,乙の職務質問開始前に乙に暴行を加え,乙がひるんだ隙に逃走した。乙が職務質問を開始する前に暴行を加えたにすぎないから,甲には公務執行妨害罪は成立しない。
5.甲は,制服警察官乙から丙が職務質問を受けているのを見て,これをやめさせようと拳大の石塊を乙に向けて投げ,その臀部に命中させたが,乙が職務質問を中断することはなかった。現実に乙の職務の執行を妨害するに至っていないから,甲には公務執行妨害罪は成立しない。

解答 3

KH2771R02-08 公務執行妨害罪 A

公務執行妨害罪に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討し,正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。 
ア.甲は,市役所の生活保護係職員乙による生活保護に関する説明に不満を抱き,同人に罵声を浴びせながら抗議するとともに,丸めたパンフレットを同人の顔面付近に2,3回突き付け,そのうち1回はパンフレットの先端が同人の顎に触れ,さらに,約2回にわたり,乙が座っている椅子を両手で持って椅子の前脚を床から持ち上げては落とすことによりその身体を揺さぶった。甲の行為は,公務執行妨害罪にいう「暴行」に当たらないので,甲に公務執行妨害罪は成立しない。
イ.甲は,警察官乙らが捜索差押許可状に基づき甲方の捜索に来た際,乙らにより甲方玄関ドアの鍵が開けられる前に,居室内にあった覚醒剤入りの注射器を足で踏み付けて壊した。甲の行為は,公務執行妨害罪にいう「暴行」に当たらないので,甲に公務執行妨害罪は成立しない。
ウ.窃盗犯人甲は,その窃盗行為を目撃した制服警察官乙から追跡されている途中で,逮捕を免れるため,同人に対し,その反抗を抑圧するに足りる程度の暴行を加えて抵抗し,そのまま逃走した。甲には事後強盗罪のみが成立し,公務執行妨害罪は成立しない。
エ.甲は,日本国内にある外国大使館の職員乙がその大使館の業務に従事していた際に,同人の顔面を殴った。乙は「公務員」に当たらないので,甲に公務執行妨害罪は成立しない。
オ.甲は,税務調査を免れるため,同調査のため甲方に来た所轄税務署職員乙の顔面を殴った。その際,乙は,規則により調査時に携帯が義務付けられている検査章を携帯していなかったが,甲がその呈示を求めることはなかった。乙に規則違反があった以上,乙の調査は職務の権限外の行為であり,甲に公務執行妨害罪は成立しない。

解答 ア2,イ1,ウ2,エ1,オ2

KH2780H27-18K 国家法益に対する罪 A

次の【事例】に関する後記1から5までの甲の罪責を判例の立場に従って検討した場合,甲に( )内の犯罪が成立しないものはどれか。
【事 例】
甲は,A方から高価な壺を盗み出した。Aは,これに気付いて甲を追い掛けたが,甲は,逃げ切って帰宅し,盗んだ上記壺を自宅のテーブルに置いていた。警察官は,甲の本件窃盗事件の捜査を開始した。
1.警察官は,甲を立会人として本件窃盗事件に係る捜索差押許可状に基づき甲方を捜索中,テーブルに上記壺が置かれているのを発見し,これを差し押さえようとして手を伸ばしたところ,甲は,腹立ち紛れにその壺を取り上げ,その場で床にたたき付けて粉々に割った。(公務執行妨害罪)
2.甲は,自宅において,本件窃盗事件に係る捜索差押許可状に基づく捜索を受けた際,自宅に隠し持っていた覚せい剤が警察官に発見されることを恐れ,これを密かにトイレに流した。(証拠隠滅罪)
3.甲は,本件窃盗事件で通常逮捕され,警察署において弁解録取の手続を受けた際,警察官が甲の供述を記載した弁解録取書を手に取って破った。(公用文書毀棄罪)
4.甲は,本件窃盗事件について発付された勾留状の執行により留置施設に留置されていたが,留置担当者の隙を見て同施設から外へ逃走した。(単純逃走罪)
5.甲は,本件窃盗事件について犯人ではないと否認していたが,公判請求され,公判でAが被害状況を証言したことを逆恨みし,公判係属中,Aに対して「自分が有罪になったら,Aの自宅へ行って直接会ってお礼をさせてもらう。」旨の手紙を送り,Aはこれを読んで不安に思った。(証人威迫罪)

解答 2

KH2800H28-18 逃走の罪 A

逃走の罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討し,正しいものを2個選びなさい。 
1.勾留状によって拘置所に勾留されていた甲は,面会者から密かに差し入れられた合い鍵を用いて房の扉を開け,拘置所から逃走した。甲には加重逃走罪の既遂罪が成立する。
2.確定判決によって刑務所に収容されていた甲は,同房に服役中の乙と逃走する旨の相談をしていたところ,ある日,房の扉が施錠されていないことに気付き,房から出て刑務所から逃走したが,乙は思いとどまり,房の外に出なかった。甲には加重逃走罪の既遂罪が成立する。
3.勾留状によって拘置所に勾留されていた甲は,隣の房に勾留されていた乙に依頼して乙の同房者丙を殴ってもらい,拘置所職員が乙の行動を制止している隙に拘置所から逃走した。甲には加重逃走罪の既遂罪が成立する。
4.確定判決によってA刑務所に収容されていた甲は,B刑務所への護送中,護送車両から逃走した。甲には単純逃走罪の既遂罪が成立する。
5.甲は,勾留状によって拘置所に勾留されていた乙を逃走させるため,乙の房の合い鍵を乙に差し入れたが,乙は拘置所から逃走しなかった。甲には逃走援助罪の既遂罪が成立する。

解答 4,5

KH2810H30-14 逃走の罪 A

逃走の罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものはどれか。 
1.拘置所に未決勾留中の甲は,逃走しようと考え,房内の換気孔周辺の壁を削って損壊したものの,脱出可能な穴を開けられなかった。甲に加重逃走罪の未遂罪が成立する余地はない。
2.確定判決によってA刑務所に収容されていた甲は,B刑務所への護送中,刑務官の隙を見て護送車から脱出し,刑務官の追跡を完全に振り切って民家の庭に隠れたが,しばらくして,付近の捜索を継続していた刑務官に発見されて護送車に連れ戻された。甲に逃走罪の既遂罪が成立する余地はない。
3.刑務官である甲は,勤務先の拘置所に未決勾留中で,自らが看守していた被告人乙を逃走させようと考え,乙の房の扉を解錠し,乙を同拘置所から逃走させた。甲に看守者逃走援助罪が成立する余地はない。
4.確定判決によって刑務所に収容されていた甲は,その看守に当たっていた刑務官に対する単なる反抗として同刑務官を押し倒したところ,同刑務官が気絶したため,その隙に逃走しようと思い立ち,同刑務所から逃走した。甲に加重逃走罪が成立する余地はない。
5.甲は,逮捕状により警察官に逮捕された乙の身柄を奪い返そうと考え,路上において,乙を連行中の同警察官に対し,体当たりをする暴行を加え,同警察官がひるんだ隙に,同所から乙を連れ去った。甲に被拘禁者奪取罪が成立する余地はない。

解答 4

KH2850H24-10K 犯人蔵匿罪・犯人隠避罪 A

犯人蔵匿罪又は犯人隠避罪に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものの組合せは,後記1から7までのうちどれか。 
ア.甲は,窃盗罪を犯して逃走中の友人乙及び丙をその事情を知りながら自宅にかくまった。その時点で,警察は,乙に対する捜査を開始していたが,丙が乙の共犯であることについては把握していなかった。甲には,乙をかくまったことについて犯人蔵匿罪が成立するが,丙をかくまったことについて同罪は成立しない。
イ.甲は,乙が強制執行妨害目的財産損壊罪を犯したことを認識した上で乙をかくまったが,同罪の刑が罰金以上であることを知らなかった。甲には犯人蔵匿罪が成立する。
ウ.甲は,殺人罪を犯して逮捕勾留された乙に依頼され,乙の身代わり犯人として警察署に出頭し,自己が犯人であるという嘘の申告をした。甲には犯人隠避罪が成立する。
エ.甲は,強盗罪を犯した後,友人乙に事情を話して唆し,自己を隠避させた。甲には犯人隠避罪の教唆犯は成立しない。
オ.甲は,乙につき,傷害罪で逮捕状が発付されていることを知りながら,乙をかくまった。その後,乙は犯罪の嫌疑が不十分であるという理由で不起訴処分となった場合,甲には犯人蔵匿罪は成立しない。 
1.ア イ  2.ア ウ  3.イ ウ  4.イ エ  5.ウ エ 6.ウ オ  7.エ オ

解答 3

KH2860H25-08 犯人蔵匿等の罪 B

犯人蔵匿等の罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,誤っているものはどれか。 
1.甲は,窃盗事件を犯して逃亡中の乙を自宅にかくまったが,かくまった時点では,既にその窃盗事件の公訴時効が完成していた。甲には,犯人蔵匿罪は成立しない。
2.甲は,強盗事件を犯して逃亡中の乙の所在を知っていたが,その所在を警察官に尋ねられた際,その質問に答えなかった。甲には,犯人隠避罪が成立する。
3.甲は,強盗事件を犯した息子乙を逮捕から免れさせるため,乙に逃走資金を与えた。甲には,犯人隠避罪が成立する。
4.甲は,過失運転致死事件の被告人として裁判を受けていた乙が保釈中であることを知りながら,乙を逃亡させるため,乙にその資金を与えた。甲には,犯人隠避罪が成立する。(問改)
5.甲は,未成年者略取・誘拐事件を犯して逃亡中,告訴権者からの告訴がない時点で,友人乙に未成年者略取・誘拐事件を犯して逃げているのでかくまってほしい旨依頼して乙宅に一晩かくまってもらった。甲には,犯人蔵匿罪の教唆犯が成立する。(問改)

解答 2

KH2870H26-16 犯人隠避教唆罪 A

次の1から5までの各記述のうち,犯人が他人を教唆して自己を隠避させた場合に犯人隠避教唆罪の成立を認める見解の根拠となり得るものを2個選びなさい。 
1.教唆犯の処罰根拠は,正犯者を犯罪に引き込み,有責で処罰される状態に陥れたことにある。
2.犯人隠避は,隠避させる者に犯人が働き掛けることによって行われるのが通常予定される事態であるから,本来は必要的共犯と理解すべき犯罪類型である。
3.正犯行為に期待可能性がないのであれば,教唆行為にも期待可能性はない。
4.犯人自ら逃げ隠れる行為のみが,法律の放任行為として国家による干渉を受けない防御の自由の範囲内にある。
5.教唆にとどまると可罰的であるのに,より犯情の重い正犯に及ぶと不可罰になるのは相当でない。

解答 1,4

KH2880H27-14 証拠隠滅等の罪 A

証拠隠滅等の罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討し,正しいものを2個選びなさい。 
1.甲は,Aが窃盗被告事件で公判請求されたと知り,同事件に関するAに有利な情状証拠を隠匿した。甲には証拠隠滅罪は成立しない。
2.甲は,親族Aが犯した傷害被疑事件につき,他人を教唆してAの犯行に関わる証拠を隠滅させた。甲には,親族による犯罪に関する特例(刑法第105条)が適用され,証拠隠滅罪の教唆犯は成立しない。
3.甲は,Aが犯した殺人被疑事件につき,目撃者Bが捜査機関から事情聴取の要請を受けたことを知り,その聴取を妨害するため,Bを甲方に2か月間監禁した。甲には証拠隠滅罪が成立する。
4.甲は,Aの強盗被告事件に証人として出廷し,法律により宣誓の上,自己の記憶と異なる偽りの事実を証言し,これに基づく証人尋問調書が作成された。甲には証拠偽造罪が成立する。
5.甲は,自己が犯した強制わいせつ被疑事件に関する証拠の隠滅をAに教唆して実行させた。甲には証拠隠滅罪の教唆犯が成立する。

解答 3,5

KH2890H29-14K 犯人蔵匿・証拠隠滅の罪 A

犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。 
ア.犯人の親族が当該犯人の利益のために犯人蔵匿罪を犯したときは,当該親族に対する刑は減軽しなければならない。
イ.犯人隠避罪の「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」には,犯人として既に逮捕・勾留されている者は含まれない。
ウ.証拠隠滅罪の「他人の刑事事件」は,犯人蔵匿罪と異なり,罰金以上の刑に当たる罪に限られない。
エ.証人等威迫罪の「威迫」は,相手と面会して直接なされる場合に限られ,文書を送付して相手にその内容を了知させる方法によりなされる場合を含まない。
オ.犯人が自己の刑事事件の裁判に必要な知識を有する証人を威迫した場合,証人等威迫罪が成立する。 
1.ア ウ  2.ア エ  3.イ エ  4.イ オ  5.ウ オ

解答 5

KH2891R03-14 証拠隠滅等罪 B

証拠隠滅等罪(刑法第104条)に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものの個数を後記1から5までの中から選びなさい。 
ア.自己の犯罪行為に関する証拠の隠滅を他人に教唆し実行させた場合,証拠隠滅罪の教唆犯は成立しない。
イ.自己の配偶者の犯罪行為に関する証拠を隠滅した場合,証拠隠滅罪が成立する。
ウ.貸金返還請求訴訟における被告が,同訴訟の証拠である消費貸借契約書の原本を焼却した場合,証拠隠滅罪は成立しない。
エ.被告人の友人が,被告人の犯罪行為に関する偽証を証人に教唆し実行させた場合,証拠偽造罪の教唆犯は成立しない。
オ.いまだ捜査が開始されていない段階で,他人の犯罪行為に関する証拠を隠滅した場合,証拠隠滅罪が成立する。 
1.1個  2.2個  3.3個  4.4個  5.5個

解答 4 ア×,イ〇,ウ〇,エ〇,オ〇

KH2910H26-02Y 偽証の罪 B

偽証の罪に関する次の各【見解】についての後記アからオまでの各【記述】を検討した場合,誤っているものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。
【見 解】
A説:「虚偽の陳述」とは,その内容が証人の主観的な記憶に反する陳述をいう。
B説:「虚偽の陳述」とは,その内容が客観的な事実に反する陳述をいう。
【記 述】
ア.A説は,証人が主観的な記憶に反する陳述をすること自体に司法作用を侵害する抽象的な危険が認められることを根拠としていると理解することができる。
イ.B説に対しては,結局のところ宣誓義務に違反したことを処罰するものであるという批判が可能である。
ウ.B説に対しては,証人が記憶に反する事実を客観的な真実に合致していると考えて陳述しさえすれば偽証罪が成立しないことになってしまうという批判が可能である。
エ.証人が,甲がVを包丁で刺した事件現場におらず,甲がVを包丁で刺すところを見ていないのに,客観的な真実は甲がVを包丁で刺したのだと考えて「私は,事件現場にいて,甲がVを包丁で刺したのを見た。」と陳述した場合,真実甲がVを包丁で刺したものであったとしても,「虚偽の陳述」に当たるかどうかを,事件全体との関係ではなく,個々の陳述との関係で判断するとすれば,B説からも偽証罪が成立する。
オ.証人が,Vを包丁で刺した犯人を見て,そのときは犯人が甲に見えたが,その後記憶が曖昧になり,逆に報道などを見て「真実はVを刺したのは甲ではない。」と考えるに至り,「Vを包丁で刺した犯人が甲でないことは間違いない。」と陳述した場合,真実Vを包丁で刺したのが甲であれば,いずれの説からも偽証罪が成立する。 
1.ア エ  2.ア オ  3.イ ウ  4.イ オ  5.ウ エ

解答 4

KH2920R01-18 司法作用に対する罪 A

司法作用に対する罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものはどれか。 
1.証人等威迫罪は,判決確定前であれば,その事件で証人として証言を終えた者を威迫した場合でも,成立する。
2.証人等威迫罪は,公判の結果に何らかの影響を及ぼそうとする意図がなければ,成立しない。
3.偽証罪は,証人がした虚偽の陳述が裁判の結果に影響しないのであれば,成立しない。
4.偽証罪は,証人が殊更記憶に反する陳述をした場合でも,陳述内容が真実であれば,成立しない。
5.虚偽告訴罪は,告訴の内容が客観的真実に合致していた場合でも,申告者が虚偽であると認識していれば,成立する。

解答 1

KH2930R01-10 公務員職権濫用罪 B

公務員職権濫用罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,誤っているものはどれか。 
1.公務員職権濫用罪の成立には,必ずしも職権行使の相手方の意思に直接働きかけ,それを制圧することまで要しない。
2.公務員職権濫用罪の成立には,必ずしも公務員の不法な行為が職務としてなされることまで要しない。
3.公務員職権濫用罪にいう「職権」は,必ずしも法律上の強制力を伴うことまで要しない。
4.公務員職権濫用罪にいう「職権」は,職権行使の相手方に対し,必ずしも法律上又は事実上の負担や不利益を生ぜしめるに足りる特別の職務権限であることまで要しない。
5.公務員職権濫用罪にいう「権利の行使を妨害した」の「権利」は,必ずしも法律に明記されたものであることを要しない。

解答 4

KH2960H26-04K 収賄罪 A

賄賂罪についての次の【判旨】に関する後記1から5までの各【記述】のうち,【判旨】の理解として正しいものはどれか。
【判 旨】
甲は,A県警察の警部補としてA県警察X警察署地域課に勤務し,犯罪の捜査等の職務に従事していたものであるが,公正証書原本不実記載等の事件につきA県警察Y警察署長に対し告発状を提出していた者から,同事件について,告発状の検討,助言,捜査情報の提供,捜査関係者への働き掛けなどの有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨の下に供与されるものであることを知りながら,現金の供与を受けたというのである。警察法等の関係法令によれば,A県警察の警察官の犯罪捜査に関する職務権限は,A県警察の管轄区域であるA県の全域に及ぶと解されることなどに照らすと,甲が,X警察署管内の交番に勤務しており,Y警察署刑事課の担当する上記事件の捜査に関与していなかったとしても,甲の上記行為は,その職務に関し賄賂を収受したものであるというべきである。
【記 述】
1.この【判旨】は,X警察署地域課とY警察署刑事課とは一般的職務権限を異にするが,同じA県警察内であり犯罪捜査という点で職務が密接に関連することから,甲が受けた現金の供与も甲の職務に関するものと認めたものである。
2.この【判旨】は,職務関連性の判断において,甲が所属するA県警察の警察官に対して法令が与えた一般的職務権限に属する職務行為であるか否かを重視している。
3.この【判旨】は,警察官が捜査情報を漏えいすることはそもそも禁じられているので,これが職務行為や職務密接関連行為に該当することはないと考えている。
4.この【判旨】は,甲が以前Y警察署刑事課に勤務中に扱った事件に関して,X警察署地域課に異動になった後に現金の供与を受けたとしても,供与を受けた時点で公務員である以上収賄罪が成立することを認めたものである。
5.この【判旨】は,当該事件の捜査を担当しているY警察署刑事課所属の警察官への働き掛けは,あっせん収賄罪にいう「あっせん」であり,これが職務行為や職務密接関連行為に該当することはないと考えている。

解答 2

KH2980H24-12 汚職の罪 A

汚職の罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討し,誤っているものを2個選びなさい。
1.収賄罪における「職務」とは,賄賂を収受する公務員の一般的な職務権限に属するとともに,本人が現に具体的に担当している事務であることを要する。
2.あっせん収賄罪が成立するためには,公務員が積極的にその地位を利用してあっせんすることは必要ではないが,少なくとも公務員としての立場であっせんすることを要し,単なる私人としての行為では足りない。
3.第三者供賄罪において,賄賂の供与を受ける第三者は,自然人に限られない。
4.公務員が一般的職務権限を異にする他の部署に異動した後に,前の職務に関して賄賂を収受した場合でも,収受の当時において公務員である以上,収賄罪は成立する。
5.刑法上,賄賂の目的物は,有体物に限られないが,財産上の利益でなければならない。

解答 1,5

KH2990H30-06K 贈賄罪 A

賄賂罪(あっせん収賄罪を除く。)に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。 
ア.賄賂罪の「賄賂」は,公務員の職務に関する不正な利益であれば足り,個別の職務行為との間に具体的な対価関係があることを要しない。
イ.賄賂罪は,賄賂を収受し,又はその要求若しくは約束をした時点でそれらの行為をした者が公務員でなければ,いかなる場合でも成立しない。
ウ.賄賂罪の「職務」とは,公務員がその地位に伴い公務として取り扱うべき執務をいうが,独立の決裁権限がなく,単に上司の補助をする立場の公務員が取り扱う事務はこれに該当しない。
エ.賄賂罪の「職務」は,公務員の一般的職務権限に属するものであれば足り,公務員が現に具体的に担当している事務であることを要しない。
オ.賄賂罪の「職務」は,賄賂を収受し,又はその要求若しくは約束をした時点で公務員の一般的職務権限に属している必要があり,公務員が一般的職務権限を異にする他の職務に転じた後に前の職務に関して賄賂を収受した場合には,賄賂罪は成立しない。 
1.ア ウ  2.ア エ  3.イ エ  4.イ オ  5.ウ オ

解答 2

KH2991R03-04K 汚職の罪 B

汚職の罪に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。 
ア.公務員になろうとする者が,その担当すべき職務に関し,請託を受けて,賄賂の収受を約束した後に公務員となったが,結局,賄賂を収受しなかった場合,事前収賄罪(刑法第197条第2項)が成立する。
イ.公務員が,その職務に関し,請託を受けて,第三者に賄賂を供与させた場合,職務上不正な行為をし,又は相当の行為をしなかったときに限り,第三者供賄罪(刑法第197条の2)が成立する。
ウ.公務員が,その職務に関し,賄賂を収受したとき,当該職務が適切なものであっても単純収賄罪(刑法第197条第1項前段)が成立する。
エ.公務員であった者が,その在職中に請託を受けて職務上不正な行為をしたことに関し,退職後に賄賂を収受した場合,事後収賄罪(刑法第197条の3第3項)は成立しない。
オ.犯人が収受した賄賂は,任意的没収の対象となる。 
1.ア ウ  2.ア オ  3.イ ウ  4.イ エ  5.エ オ

解答 1

第7編 総合問題 

KH3000H25-20K 窃盗罪等に関する事例問題 B

次の【事例】における甲の罪責に関する後記1から5までの各【記述】を判例の立場に従って検討し,正しいものを2個選びなさい。
【事 例】
甲は,深夜,帰宅しようと歩いていたところ,道端に見ず知らずのAが重傷を負って倒れているのを見付けた。甲は,周囲にA以外の誰もおらず,Aには意識があるものの,動ける状態ではなかったことから,これに乗じて,Aの傍らに落ちていたAのかばんの中から金品を持ち去って自分のものにしようと考え,Aに対し,「もらっていくよ。」と言って,同かばんからAの財布を取り出して自分のかばんの中に入れた上,Aを救護することなくそのまま放置してその場を立ち去った。甲は,自宅に戻り,Aの財布の中を見たところ,現金約1万円のほか,①大きさや重さは五百円硬貨と同じであるものの,中央に穴が開けられ,模様もない円形の金属片10枚,②クレジットカードと同じ大きさであるものの,外観上何ら印刷が施されておらず,4桁の数字が手書きで書かれ,磁気ストライプらしき黒いテープが貼られているプラスチック製の白色カード1枚を見付けた。甲は,①の金属片はAが自動販売機等で商品を購入する際などに使うつもりで持っていたものだろうと考え,同金属片10枚を1本100円の缶ジュースの自動販売機に順次投入して購入ボタンを押し,出てきたジュース10本と釣銭合計4000円を自分のものにした。また,②の白色カードは,他人のクレジットカードの磁気情報をコピーして不正に作成されたカードであったが,甲は,そのことを認識した上,同カードに書かれた4桁の数字がその暗証番号に違いないと考え,後日同カードを現金自動預払機に挿入して現金を引き出すつもりで,同カードを自宅に保管しておいた。
【記 述】
1.甲が上記重傷を負ったAを放置して立ち去った行為には,単純遺棄罪が成立する。
2.甲が上記Aの財布を自分のかばんに入れて持ち去った行為には,窃盗罪が成立する。
3.甲が上記金属片を自動販売機に投入した行為には,偽造通貨行使罪が成立する。
4.甲が上記金属片を自動販売機に投入してジュースと釣銭を得た行為には,電子計算機使用詐欺罪が成立する。
5.甲が上記白色カードを自宅に保管しておいた行為には,不正電磁的記録カード所持罪が成立する。

解答 2,5

KH3010H27-20K 各種犯罪の成否 A

次の【事例】に関する後記アからオまでの各【記述】を判例の立場に従って検討し,正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。
【事 例】
借金の返済に苦しんでいた甲とその内縁の妻乙は,A市が発行した乙を被保険者とする国民健康保険被保険者証の氏名を乙から実在しない丙に改変し,丙になりすまして消費者金融会社から借入れをして現金を手に入れることを相談した。甲と相談したとおり,乙は,上記国民健康保険被保険者証の被保険者氏名欄に乙とあるのを丙と書き換えた。そして,乙は,消費者金融会社の無人借入手続コーナーにおいて,借入申込書に丙の氏名を記載し,丙と刻した印鑑を押捺するなどして丙名義の借入申込書1通を完成させた上,同申込書及び氏名を丙に改変した上記国民健康保険被保険者証の内容を,同コーナーに設置された機械を使用し,同機械に接続されている同社本店の端末機に送信し,同社の貸付手続担当者に対し,丙であるかのように装って100万円の借入れを申し込んだ。同担当者は,当該申込みをした者が真実丙であり,かつ,貸付金は約定のとおりに返済されるものと誤信し,同社の貸付システムに従って丙名義の借入カードを上記コーナーに設置された機械から発券した。乙は,その場で同カードを入手し,同カードを現金自動入出機に挿入して同機から現金100万円を引き出した。その後,乙は,上記行為に及んだことを後悔し,自宅で,甲に一緒に自首をしようと持ち掛けた。甲は,これを聞いて激高し,乙を窒息死させようと考え,その首を絞めたところ,乙は首を絞められたことによるショックで心不全になり死亡した。甲は,乙の死亡から約30分後,死亡して横たわっている乙の指に時価20万円相当の乙の指輪がはめてあることに気が付き,同指輪を奪って逃走した。
【記 述】
ア.乙が国民健康保険被保険者証の被保険者氏名欄を丙と書き換えた行為については,単に文書の内容を書き換えたにすぎないから,甲と乙には,公文書偽造罪ではなく,公文書変造罪が成立する。
イ.乙が丙名義の借入申込書を作成した行為については,丙が実在しなくても,一般人をして真正に作成された文書であると誤信させる危険があるから,甲と乙には有印私文書偽造罪が成立する。
ウ.甲と乙は,当初から現金100万円を手に入れる目的で丙名義の借入カードを入手し,同カードを利用して現金100万円を引き出したのだから,甲と乙には現金100万円について詐欺罪が成立する。
エ.甲は,乙を窒息死させようとしていたが,乙はそれとは別の原因で死亡するに至ったのであるから,甲には,乙の首を絞めて死亡させた行為について殺人既遂罪は成立せず,殺人未遂罪と過失致死罪が成立する。
オ.甲が乙の指輪を奪った行為については,その時点で乙は既に死んでいるから,甲には,窃盗罪ではなく,占有離脱物横領罪が成立する。

解答 ア2,イ1,ウ2,エ2,オ2

KH3020H28-12 電子計算機等にかかる犯罪 B

次のアからエまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。
ア.Aの知人Bは,料理が趣味であり,自宅のパソコンに料理のレシピのデータを保存していた。Aは,Bと口論をした際,Bが大事にしている同データを壊してやろうと思い,同パソコンをたたき壊した。同パソコンを壊したAの行為について,電子計算機損壊等業務妨害罪は成立せず,器物損壊罪が成立する。
イ.Aは,Bに成り済まし,銀行の窓口行員Cに対し,B名義の口座の預金をA名義の口座に振込入金するよう依頼した。Cは,AをBと思い込み,コンピュータの端末を操作して,同銀行が業務用に使用している電子計算機にアクセスし,前記依頼のとおり振込入金の処理をした。Bに成り済まし,Cに振込入金の処理を行わせたAの行為について,電子計算機使用詐欺罪が成立する。
ウ.Aは,盗んだ財布の中に,不正に作られた電磁的記録をその構成部分とするクレジットカードが入っていることに気付き,同カードを使用するつもりはなかったが,機会があれば友人に見せようと考え,同カードを自己の財布に入れて持ち歩いていた。同カードを持っていたAの行為について,不正電磁的記録カード所持罪は成立しない。
エ.Aは,同僚Bのパソコンに,コンピュータウイルスを感染させてBの業務を妨害しようと考え,コンピュータウイルスを作成したが,自宅のパソコンでその効果を試したところ,市販のウイルス対策ソフトで検出されてしまうことが分かったため,同ウイルスを使用することは断念した。同ウイルスを作成して試した一連のAの行為について,電子計算機損壊等業務妨害罪の未遂罪が成立する。
1.ア イ  2.ア ウ  3.ア エ 4.イ エ  5.ウ エ

解答 2

KH3030H29-20K 各種犯罪の成否 A

次の【事例】に関する後記1から5までの各【記述】を判例の立場に従って検討し,正しいものを2個選びなさい。
【事 例】
甲は,覚せい剤の密売人である乙から,偽造した1万円札と引換えに覚せい剤をだまし取ろうと考え,1万円札の偽造に使用する目的で,作業部屋を自己名義で賃借した上,印刷機及び印刷用紙を購入して同部屋に運び込み,それらを使用して1万円札100枚を偽造した。(①)
その後,甲は,ホテルの部屋で乙と会い,乙に対し,100万円相当の覚せい剤(以下「本件覚せい剤」という。)の代金として,偽造した1万円札100枚を渡した。乙は,甲から渡された1万円札が偽札であることに気付かずに,甲に対し,本件覚せい剤を渡し,甲は,これを持って同部屋を出た。(②)
甲は,本件覚せい剤をホテルの駐車場に駐車中の自己の自動車内に置いたところ,甲が乙に渡した1万円札が偽札であることに気付いて追い掛けてきた乙から,本件覚せい剤を返還するように求められた。甲は,本件覚せい剤の返還を免れるため,殺意をもって乙の首を両手で絞めて乙を殺害した。(③)
その数日後,甲は,本件覚せい剤を所持しているのを警察官に現認され,覚せい剤取締法違反の現行犯人として逮捕され,A警察署に連行された。警察官丙は,A警察署の取調室において,甲の弁解録取手続を行い,甲の供述内容を弁解録取書に記載した上,同弁解録取書を甲に手渡して内容の確認を求めたところ,甲は,署名押印する前に同弁解録取書を両手で破った。(④)甲は,同取調室から逃げ出し,A警察署の敷地外に出た。(⑤)
【記 述】
1.①について,甲が作業部屋を自己名義で賃借した行為は,通貨偽造罪の予備行為に該当することから,その段階で甲には通貨偽造等準備罪が成立する。
2.②について,甲には詐欺罪が成立し,偽造通貨行使罪は詐欺罪に吸収される。
3.③について,覚せい剤は,法定の除外事由なく所持することが禁じられた物であるが,甲は,本件覚せい剤の返還を免れるために乙を殺害していることから,甲には強盗殺人罪が成立する。
4.④について,丙が作成した弁解録取書には,甲の署名押印がないが,甲の供述内容が記載されていることから,甲には公用文書等毀棄罪が成立する。
5.⑤について,甲は,逮捕中に逃走し,A警察署の敷地外に出ていることから,甲には単純逃走罪が成立する。

解答 3,4

KH3040H30-02K 各種犯罪の成否 A

次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。 
ア.甲は,同僚Aを会社の備品倉庫内に閉じ込めて困らせようと考え,午後7時頃,Aが一人で作業をしていた同倉庫の全ての出入口扉に外側から鍵を掛けた。Aはそのことに気付かず,もともと同倉庫で深夜遅くまで仕事をするつもりであったので,そのまま作業を続けていたところ,午後10時頃,たまたま同倉庫にやって来た他の従業員が出入口扉の鍵を開けた。この場合,甲には監禁罪は成立し得ない。
イ.甲は,別居中の元妻Aが単独で親権を有する生後数日のBを連れ去ろうと考え,A方を訪問した上,Aがトイレに行っている隙に,ベビーベッドで寝ていたBを連れ去った。この場合,Bには移動の自由が全くないから,甲には未成年者略取罪は成立し得ない。
ウ.甲は,捜査車両をのぞき見て同車両のナンバーを把握するため,警察署の建物及び敷地への外部からの立入りを制限するとともに内部をのぞき見ることができない構造として作用し,建物の利用のために供されている高さ約2.5メートルのコンクリート塀を正当な理由なくよじ登り,その上部に立って同警察署の敷地内の捜査車両を見て立ち去った。この場合,甲には建造物侵入罪は成立し得ない。
エ.甲は,Aに恨みを抱き,「ふざけるな。おまえの妻Bを酷い目に遭わせてやる。」という電子メールをA宛てに送り付けた。BがAの内縁の妻であった場合,甲には脅迫罪は成立し得ない。
オ.甲は,深夜,A方に侵入し,泥酔して熟睡中のAにわいせつ行為をして,Aに全く気付かれないままA方を出た後,A方から約100メートル離れた路上で,警ら中の警察官Bから職務質問を受けたため,逮捕を免れる目的で,Bを拳骨で殴打してBに傷害を負わせた。この場合,甲には準強制わいせつ致傷罪は成立し得ない。 
1.ア イ  2.ア オ  3.イ ウ  4.ウ エ  5.エ オ

解答 5

KH3050H30-20K 各種犯罪の成否 B

次の【事例】に関する後記アからオまでの各【記述】を判例の立場に従って検討し,正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。
【事 例】
甲は,別居している実弟Aとの間で,自己が所有するX市内の土地(以下「本件土地」という。)を代金3000万円で売却する売買契約を締結し,Aから代金全額の支払を受けたものの,本件土地の所有権移転登記は未了のままであった。
そこで,甲は,自己が経営する会社の資金繰りのため,自らが保管していた本件土地の登記済証を利用し,事情を知らないBに対して,本件土地に抵当権を設定するので,それを担保に1000万円を融資してほしい旨申し入れたところ,Bは,これを了承した。数日後,甲は,Bから1000万円の融資を受けた上,Aに無断で本件土地の抵当権設定登記を完了した。
X市の土木部長である乙は,本件土地を乙個人として購入したいと考え,甲に対して,その旨を申し入れた。甲は,乙に対して,本件土地は既にAに売却済みであるが,登記名義は自分に残っているので,代金2000万円で売却してもよい旨を伝えたところ,乙は,これを了承した。
そして,乙は,Y市内に時価700万円の農地(以下「本件農地」という。)を所有していたことから,本件土地の購入資金を調達するため,それまでにX市発注の公共工事の受注に際して,土木部長として便宜を図ってきた建築業を営むCに対して,本件農地を時価で買い取ってほしい旨を依頼した。Cは,本件農地にはそれまで買手が全く見付からず,乙が苦労していることを知りながら,かねてX市発注の公共工事の受注に際して乙が有利な取り計らいをしてくれたことに対する謝礼の趣旨に加え,時価であれば損をすることもないと考えて,乙の依頼を了承した。そして,Cは,乙と本件農地の売買契約を締結した上で,乙に現金700万円を手渡した。
その後,甲は,Aに無断で乙と本件土地の売買契約を締結し,乙から代金全額の支払を受けた上,本件土地の所有権が売買により乙に移転した旨の登記を完了した。
【記 述】
ア.甲がAに無断で本件土地に抵当権を設定し,その旨の登記を完了したことについては,甲に横領罪が成立するが,Aは甲の実弟であるので,告訴がなければ公訴を提起することができない。
イ.甲が本件土地をAに無断で乙に売却し,所有権移転登記を完了したことについては,それ以前に甲がAに無断で本件土地に抵当権を設定し,その旨の登記を完了したことによって,犯罪の成立は妨げられないので,甲に横領罪が成立する。
ウ.乙は,本件農地を時価でCに売却したのであるから,乙がCから交付を受けた現金700万円は通常の経済取引に基づく不動産の購入代金であり,不正な利益としての賄賂には当たらないので,乙に収賄罪(収受)は成立しない。
エ.仮に,乙が,Cに対して,時価を超える1000万円で本件農地を購入するよう依頼したが,Cはこの依頼を拒否した場合,収賄罪と贈賄罪は対向犯として必要的共犯の関係にあるので,乙に収賄罪(要求)は成立しない。
オ.乙は,甲から本件土地が既にAに売却済みであることを知らされながら,Aに無断で本件土地を購入し,所有権移転登記を完了したのであるから,乙に横領罪の共同正犯が成立する。

解答 ア1,イ1,ウ2,エ2,オ2

KH3060R01-11 故意 A

次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,誤っているものを2個選びなさい。 
1.甲は,乙から,甲宛てに荷物を発送したので受け取ってほしいと依頼され,もしかしたら同荷物には覚せい剤を含む身体に有害で違法な薬物が入っているかもしれないと思いながら,乙が覚せい剤を忍び込ませた荷物を受け取って所持していた。この場合,甲には,覚せい剤取締法違反(覚せい剤所持)の罪が成立する。
2.甲と乙は,丙に暴行を加えて傷害を負わせることを共謀したところ,乙において,丙に暴行を加えている最中に興奮して殺意を生じ,丙を殺害した。この場合,甲には,傷害罪の共同正犯が成立する。
3.甲は,乙が第三者から窃取した指輪を,もしかしたら盗品かもしれないと思いながら,あえて有償で乙から譲り受けた後,同指輪に乙と同じイニシャルが刻み込まれていることに気付き,盗品ではないと確信するに至った。この場合,甲には,盗品等有償譲受け罪が成立する。
4.甲は,わいせつな映像を録画したDVDを,あらかじめその内容を再生して確認し,この程度ではわいせつ物には当たらないと考えて,多数の者に販売した。この場合,甲には,わいせつ物頒布罪が成立する。
5.甲は,乙を殺害しようと考え,乙の背部を狙って拳銃の弾丸を発射したところ,同弾丸が乙ではなく,乙の隣にいた丙の腹部に当たり,丙を死亡させた。この場合,甲には,乙に対する殺人未遂罪と丙に対する重過失致死罪が成立する。

解答 2,5

KH3070R01-20K 犯罪の成否 A

次の【事例】に関する後記アからオまでの各【記述】を判例の立場に従って検討した場合,誤っているものの個数を後記1から5までの中から選びなさい。
【事 例】
甲は,友人乙から,借金の返済に窮している旨の相談をされ,乙に対し,「実家に親父の高級腕時計がある。それを盗んで売りさばけば金になる。」と提案し,甲と別居する甲の実父V方からV所有の腕時計を盗むことを唆した。乙は,甲の提案を受け,V方に窃盗に入ることとしたが,仮に,窃盗を行う際にVらに見付かって逮捕されそうになった場合には,Vらをナイフで脅してこれを抑圧し,逃走しようと考えた。
乙は,某日午後0時頃,前記の意図でナイフを購入し,それを携帯してV方に向かい,同日午後1時頃,腕時計を盗む目的で,V方に窓から侵入した上,寝室でV所有の腕時計(時価100万円相当)を窃取した。乙は,その後間もなく,V方玄関ドアの施錠を外して戸外に出て,誰からも発見,追跡されることなく,V方から約1キロメートル離れた公園まで逃げた。乙は,同所において,やはり現金も欲しいと考え,再度V方に窃盗に入ることを決意し,V方に戻り,同日午後1時30分頃,V方玄関内に入ったところ,その直後に帰宅してきたVと鉢合わせとなったことから,逮捕を免れるため,前記ナイフをVの面前に示し,Vが恐怖の余り身動きできないうちに逃走した。
乙は,翌日,甲に前記腕時計の売却を依頼した。甲は,同腕時計の売却先を探し,知人丙に対し,その買取りを申し向けたところ,丙が80万円で購入する旨答えたことから,同腕時計を丙に売却した。甲は,丙から同腕時計の売却代金として80万円を受け取ったが,その後,これを自己のものにしようと考え,乙に無断で,その全額を遊興費として費消した。
【記 述】
ア.乙が某日午後0時頃に購入したナイフを携帯してV方に向かったことについては,「強盗の罪を犯す目的」が認められないので,乙に強盗予備罪は成立しない。
イ.乙がVをナイフで脅迫したことについては,腕時計の窃取行為との時間的・場所的な近接性に照らせば,窃盗の機会の継続中に行われたものといえるため,乙に事後強盗罪が成立する。
ウ.甲が乙に腕時計の窃盗を唆したことと,その売却をあっせんしたことは,原因と結果の関係に立つので,窃盗教唆罪と盗品等有償処分あっせん罪は牽連犯となる。
エ.Vの直系血族である甲には盗品等に関する罪について親族等の間の犯罪に関する特例が適用されるため,盗品等有償処分あっせん罪について,甲はその刑を免除される。
オ.甲が腕時計の売却代金を費消したことについては,同腕時計の窃盗犯人である乙は甲に対してその代金の引渡しを請求する権利がないので,甲に委託物横領罪は成立しない。 
1.1個 2.2個 3.3個 4.4個 5.5個

解答 5 ア×,イ×,ウ×,エ×,オ×

KH3080R02-20K 犯罪の成否 A

次の【事例】に関する後記アからエまでの各【記述】を判例の立場に従って検討した場合,正しいものの個数を後記1から5までの中から選びなさい。
【事 例】
甲は,某所公園内において,ベンチ上に置いてあるバッグ1個(以下「本件バッグ」という。)を発見し,誰かが置き忘れたものと考え,警察に届け出るため,これを手に取り,同公園から路上に出た。一方,本件バッグをベンチに置き忘れたことに気付いたVは,同公園に戻ろうとして同路上に至ったところ,甲を発見した。Vは,甲が本件バッグを盗んだと疑い,「バッグを返せ。」と言いながら,甲の腹部を2回足で蹴り,甲から本件バッグを奪い,さらに,甲を蹴り上げるような仕草を続けた。甲は,Vの暴行を避けようとして,その胸付近を1回平手で突いたところ,その勢いでVが後方に転倒し,後頭部を路面に打ち付け,失神した。甲は,その頃には,Vが本件バッグの所有者であると分かっていたが,Vの態度に怒りを覚えたことなどから,本件バッグを自己のものにしようと考え,失神しているVからこれを取り上げて自宅に持ち帰った。
その後,甲が本件バッグ内を確認したところ,V名義の預金口座のキャッシュカード等在中の財布,V所有の携帯電話機等の物品が入っていた。甲は,これらを見て,Vの氏名,勤務先のほか,携帯電話機にわいせつな盗撮画像が保存されていることを知り,これを奇貨とし,Vから上記キャッシュカードの暗証番号を聞き出して上記口座から預金を引き出そうと思い,勤務先にいたVに電話をかけ,「あんた盗撮してるな。警察に携帯を持って行かれたくないなら,あんたのキャッシュカードの暗証番号を教えろ。」と要求するなどした。Vは,この要求を断れば,盗撮の事実が警察に露見すると思い,やむを得ず甲に同暗証番号を教えた。その後,甲は,上記キャッシュカードを用いて現金自動預払機から現金50万円を引き出した。
【記 述】
ア.甲が本件バッグを警察に届け出るために某所公園内から持ち出した行為は,Vによる占有の回復を困難にする行為であるため,窃盗罪又は占有離脱物横領罪が成立する。
イ.Vは本件バッグを甲から取り返す目的で暴行を加えており,この暴行は正当行為に該当するため,甲がVの胸付近を1回平手で突いた行為の違法性が阻却される余地はなく,甲には,暴行罪又は傷害罪が成立する。
ウ.甲が本件バッグをVから取り上げた行為は,甲の暴行に起因するVの失神状態に乗じて本件バッグの占有を取得したといえるため,強盗罪が成立する。 
エ.甲が現金自動預払機から現金50万円を引き出した行為は,甲が,これに先行してVから暗証番号を聞き出した時点で,Vの預金の払戻しを受け得る地位を得たことにより,その預金の占有を取得したといえるため,窃盗罪は成立しない。 
1.0個  2.1個  3.2個  4.3個  5.4個

解答 1 ア×,イ×,ウ×,エ×

KH3090R03-09 犯罪の成否 A

次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討し,正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。
ア.甲は,勤務先の事務室で1人で残業をしていたところ,使用中の電気ストーブから周囲の可燃物に誤って引火させた。甲は,その時点での消火作業は容易であったにもかかわらず,同室を含む勤務先建物が焼損することを認容して,消火作業をすることなく,同室から立ち去り,その結果,同建物が全焼した。その行為当時,同建物の他の部屋では甲の同僚が仮眠中であり,甲もそのことを認識していた。この場合,甲に既発の火力を利用する意思がなければ,現住建造物等放火罪は成立しない。
イ.甲は,Vと2人きりのホテル客室で,その同意の下,Vに対し,覚醒剤を注射したところ,Vが体調の異変を訴え,錯乱状態に陥ったため,救急医療を要請する必要があることを認識し,その要請をしていれば,Vの救命は確実であったにもかかわらず,その要請をすることなく,Vを放置したまま同室から立ち去り,その結果,Vが死亡したが,甲に殺意はなかった。この場合,甲がVを放置した行為とVの死亡との間の因果関係に欠けることはなく,甲には,保護責任者遺棄等致死罪が成立する。
ウ.甲は,深夜,自動車を運転中,路上で過失により通行人Vに同車を衝突させて,歩行不能の重傷を負わせた上,一旦Vを同車に乗せて,降雪中の周囲にひとけのない路上に移動し,Vに対し,医師を呼んでくるとうそを言って,Vを同車から降ろし,同車で同路上から立ち去ったが,甲に殺意はなかった。この場合,甲には,Vを保護する責任があり,保護責任者遺棄等罪が成立する。
エ.甲は,自己の口座に振込先を誤った振込入金があったことを知ったが,銀行窓口において,窓口係員に対し,その受取人として上記の誤った振込入金があった旨を告知せずに,その払戻しを請求し,事情を知らない同係員をして,払戻しに応じさせた。この場合,甲には,上記の誤った振込入金があったことを告知する義務はなく,詐欺罪は成立しない。
オ.甲は,面識のない他人のVと口論に及び,その首を絞めて窒息死させ,Vの死体をその場に放置して逃走した。この場合,甲には葬祭義務はなく,死体遺棄罪は成立しない。

解答 ア2,イ1,ウ1,エ2,オ1

KH3100R03-20K 正当防衛・緊急避難 A

次の【事例】に関する後記アからオまでの各【記述】を判例の立場に従って検討し,正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。
【事 例】
暴力団A組の組員甲は,クラブで飲酒していた際,たまたま入店してきた旧知の暴力団B組の組員乙に因縁を付けられて口論になり,乙に拳で殴りかかった。乙は,これを避けた上,更に殴りかかろうとしてきた甲の胸部を拳で数回強打した。その数分後,B組の組員丙は,乙と待ち合わせをしていた上記クラブに到着し,その直後に甲の態度に激高し,いきなり甲の胸部を拳で数回強打した。甲は,全治約1か月間を要する肋骨骨折の傷害を負ったが,同傷害が乙と丙のいずれの暴行によって生じたのかは不明であった。甲は,一旦帰宅したものの怒りが収まらず,何か嫌がらせをしてやろうと考え,金属バットを持ち,覆面で顔を隠してB組事務所に行き,その玄関ドアを同バットでたたいて凹損させた。その直後,甲は,A組事務所に行き,A組の組員丁に対し,B組組員から殴られた腹いせにB組事務所の玄関ドアを凹損させたことを話した。丁は,B組との関係悪化を避けるとともに,甲の刑事責任を免れさせるため,甲との間で,犯行時間帯に甲がA組事務所にいたことにする旨の口裏合わせをした。また,丁は,B組組員複数名による襲撃を受ける可能性もあると考え,万が一に備えて,着衣のポケットに護身用として果物ナイフを入れた。他方,乙及び丙は,上記ドアが凹損させられたとの連絡を受け,甲の仕業だろうと考え,A組事務所へ向かった。乙は,応対に出た丁に対し,「甲を出せ。」と言った。丁は,「何の話だ。」と応じたが,乙は,その態度に憤激し,「しらばっくれるな。」と言い,持っていた拳銃を取り出して丁に突き付けた。丁は,自己の身を守るため,上記ナイフで乙の腹部を1回突き刺し,乙に全治約1か月間を要する腹部刺創の傷害を負わせた。丁は,駆けつけた警察官に逮捕され,その後,逃走していた甲も上記ドアを凹損させた事実で逮捕された。丁は,甲の身柄拘束中,甲の犯行に関する参考人として取調べを受けた際,上記口裏合わせに従い,上記ドアが凹損させられた時間帯に甲がA組事務所にいた旨のうその供述をした。
【記 述】
ア.乙が甲の胸部を拳で強打した行為については,甲からの侵害が,乙が甲に因縁を付けたことにより招かれたものである以上,正当防衛又は過剰防衛が成立することはない。
イ.乙は,甲の肋骨骨折について,丙の行為のみにより生じた可能性がある以上,丙との間で共謀が成立していない限り,傷害罪の刑事責任を負わない。
ウ.甲がB組事務所の玄関ドアを凹損させた行為については,同ドアが工具を使用すれば容易に取り外せる構造であった場合,建造物損壊罪は成立しない。
エ.丁が果物ナイフで乙の腹部を突き刺した行為については,B組組員から襲撃を受けることを予期し,凶器ともいえるナイフを準備している以上,その予期の程度にかかわらず,侵害の急迫性を欠くものといえ,正当防衛又は過剰防衛は成立しない。
オ.丁が,甲の犯行に関する参考人として取調べを受けた際,B組事務所の玄関ドアが凹損させられた時間帯に甲がA組事務所にいた旨のうその供述をした行為については,犯人隠避罪が成立する。

解答 ア2,イ2,ウ2,エ2,オ1